秋深まる“天城の森”を歩いたのは実に八年ぶりである。しかもこれほど紅葉のピークにタイミングが合ったのは初めて。
十一月十二日(火)八時四十分。やや空模様が怪しかったが、きりりと冷えた朝の空気を胸いっぱいに吸い込むと、苔むした石段を登り始める。
まずは旧天城トンネルを左にして登山道へ入り込む。コースはいつも通りの“上り御幸歩道”だ。ここを歩けば誰もが天城の原生林の美しさに息をのむこと間違いなし。特にヒメシャラとブナは、他では見たことのない見事な景観づくりの主役になっている。
向峠まで歩を進めると、待ってましたとばかりに真っ赤なモミジが目に入り始め、見事な紅葉の森が待ち構えた。鮮やかさは申し分のないレベルで、歩を止めてはシャッターを切りがとめどなく続く。後になってだいぶコースタイムに遅れが出ていることがわかり大いに反省。この季節は日が落ちるのが早く、ややもすればヘッドライトの出番になってしまうからだ。紅葉狩りといえども山を甘く見てはならない。
“天城の瞳”とも呼ばれる八丁池に到着すると、一組の夫婦と年配女性三人組が休憩中。正面の石段にザックを下ろしさっそくランチの準備。腕時計を見るとすでに十三時を回っている。ついさっきまでは汗ばんでいたが、やはり標高が1170mあるので、腰を据えて五分もたたないうちにウィンドブレーカーを羽織ることに。それにしても湖畔は静かである。風がほとんどないので静寂と言っていいほどだ。耳に入るのは隣の三人組のおしゃべりだけ。彼女たち、そろそろ出発のようだ。
「それじゃ」
「気をつけて」
合わせるようにご夫婦も腰を上げた。独り占めの八丁池でしばしのシャッタータイム。ただ時間が押していたので、後ろ髪はひかれたが早々にザックをまとめた。
下山は“下り御幸歩道”。周囲の景観は単調になり、カメラの出番はほとんどなくなるので、ひたすら歩を進めた。それでもPOLOを駐車した水生地下駐車場へ到着したのは十五時を少し回ったころだ。
下田街道を下り婆娑羅峠経由で仁科を目指した。今夜は一度利用したことのある“由垚松”に宿泊である。たっぷりとした湯船に浸かり疲れをいやしたら、“茶房ぱぴよん”で大好物の生姜焼き定食を肴に、焼酎オンザロックをググっと二杯。いやはや天国。
せっかく伊豆まで来たので、翌日は沼津の香貫山へ寄ってみた。子供のころはよく登った山だが、それ以来六十年近くのご無沙汰だ。まだ具体的な計画はないが、一度はあの“沼津アルプス”を走破したいので、その下見を兼ねたのである。
展望台へ立つと予想を上回る景観にびっくり。沼津の市街地を中心に、箱根から富士山、駿河湾、そして伊豆までがきれいに見渡せる。これは間違いなくビッグビューである。望遠レンズで覗けば、小学生時代の学び舎である沼津市立第二小学校までが見える。ここで夜景にトライしたらと思うと、いてもたってもいられなくなった。