友人 I

「ついに本物のジジイになっちまったな」
「あ~、やだやだ……」
 向かいで生ビールをあおっているのは中学校時代からの親友I。紆余曲折を挟みながら五十年以上の付き合いになる。先月、二人揃って古希を迎えた。
「一年会わないうちに、頭、ずいぶんと涼しくなったんじゃない」
「うるさいなぁ~、あんまり見るなよ」
 素っ頓狂な男だが、なんの気兼ねもなく酒を酌み交わせる唯一の相手だ。ただ、私の友人の中では抜きんでてぶっ飛んでた男でもある。高校中退、暴走族、喧嘩、車、女と、若気の至りの見本市のような青春を駆け抜けた。彼の亡き母親が肩を落としながらこぼした幾多の話は、今でも頭にこびりついて離れない。一人息子だったIを溺愛し、少しでも良い教育環境をと、小学校は私立へ通わせ、家庭教師も付け、ずいぶんと金をかけたのだが、まるでそれを真正面から逆らうようにひたすらぶっ飛びまわった。
 それでも父親が亡くなり、家業を継いでからは、これまで見えなかった彼の商才が遺憾なく発揮され、遂には別荘を持ち、ベンツを転がすまでに伸し上がったのだ。

1969年 中学三年生・修学旅行


「春になったら福島へ来いよ。温泉行こうぜ」
「そうね」
 体を動かすことは大嫌い、タバコは今でも嗜み、好きなものしか食わず、おまけに夜更かしの毎日。確実にこのつけは回ってくるだろう。
 果たして来春に温泉は楽しめるのだろうか。


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