頻繁に山へ行くようになったのは十七年前。きっかけは写真撮影である。被写体を求めて奥多摩の渓流沿いを歩くうちに、森の空気感が肌に合うことに気づいたのだ。
とは言え、運動不足の五十路男にとって山は極めてハードな場所だった。当初は左膝の腸脛靭帯炎に悩まされ、五時間を超える山行になると決まって下山時に痛みが発生、足を引きずることも屡々。それでも継続したい一心で、webサイトや文献から膝トラブルについての情報を収集。その情報をまとめると、たいがいの膝トラブルは、それが初期段階ならば筋肉や筋を丁寧に鍛え上げていくことにより、改善できる可能性が大きいことがわかった。
階段の上り下りで右膝に痛みが出始めた頃、ちょうど定年退職を迎えた。これを機会に、ウォーキング並びに膝と股関節まわりの筋トレ&ストレッチを日課として取り入れることにした。自由気ままな生活というものは、一度気持ちの緩みを許してしまえばとどまることはなく、いつしか体力と健康を失い、終いには病気共存の毎日に陥ること間違いなしなのだ。
ウォーキングはペースを上げても、路面が平らならほとんど痛みは出ないが、歩道にある段差を安易に通過すると決まってズキッとくるので注意が必要だった。まずは二週間、何も考えずに歩いた。コースはいつも同じで一周5.4Kmである。(自宅~境橋~浄水場正門~武蔵野六中~跨線橋~三鷹通り~自宅)
師走が近づく頃になると体力的にややゆとりが出てきたので、ウォーキングの間にちょっとだけジョギングを取り入れようと考えた。ウォーキングは膝まわりへの負担が意外と小さく、主眼である<鍛えて治す>にはやや物足りなさを感じていたのだ。ところがいざ走り出すと、踵をつくたびに痛みが起こり、歩幅を広げるとさらに顕著になった。結局10mも走れない。弱った膝には軽いジョギングでさえ厳しいのかと落ち込む。こんなことがあるとついつい歳のせいにしてしまい、気持ちが上向かない自分に嫌気がさした。
年が明け、打開策として新たに取り入れたのがスロージョギング。これはジョギングのスローペース版ではなく、脚運びが根本的に異なる別の走り方。ジョギングやランニングは踵から接地するが、スロージョギングは足裏全体で接地し、歩幅はウォーキングより小さくとる。よって足腰への負担は少なく、実際にやってみても痛みは出にくい。これは良さげと始めたが、二~三日続けてみると意外な落とし穴が見えてきた。脚の運びが殆ど“すり足”なので、路面のわずかな起伏や荒れているところなどでは躓くこと屡々。躓けば一瞬大きな力が膝にかかり、ギクッという痛みが走る。これでは治るどころか下手をすれば悪化させる危険性もある。せっかく自分に合ったやり方を見つけたと喜んだのもつかの間、ふりだしに戻ったようで、またまた溜息連発だ。
“急いては事を仕損じず”。
ここは冷静になって、あと一か月ちょっと、つまり新年一月いっぱいはウォーキングに徹することにした。