ローカットシューズと刈寄山

 十一月十七日(水)。先回刈寄山を歩いたのは今年の四月だから、大凡半年ぶりになる。往復四時間弱という気軽な行程と、自宅から最も近い利便性で、年に数回、コンスタントに歩いている馴染みの山だが、今年は新たな山域ばかりへ目が向いて、ご無沙汰していたのだ。
つい最近、登山靴を新調した。SALEWAのローカットタイプで、これまでホーキンス、コロンビア、モンベルと全てハイカットだったから、トレランなどでよく見かけるローカットを一度は試してみたいと思っていた。ただ、ローカットについては、足首を痛めやすく初心者向きではないとの情報が多くを占め、愛用中のモンベル・ツオロミーブーツに特段の文句もなかったので、購入まではなかなか踏ん切りがつかなかった。ところが夏からの山歩きで、ローカットを履いているハイカーをちょくちょく目にするようになり、興味が急上昇。通販だが低価格だったし、ユーザー評価もまあまあであるメーカーの商品を見つけたので、会わなかったら普段履きにでもすりゃいいと、衝動買いした。
到着した商品をチェックすると、案の定、値段なりである。普通のスニーカーとどこが違うのか……
これまでのトレッキングシューズは全てサイズ26.5cmだったので、今回も同じサイズを選んだが、厚手のソックスで履いてみても若干大きい。まあ、大きいといっても、シューレースをきちっと縛れば不安定になることもなく、フィット感の第一印象は及第点スレスレといったところか。

 今回の刈寄山はこのローカットシューズのテストも兼ねていた。
歩き出して感じるのは“軽さ”。ローカットで且つソールが薄いので、足の開放感は抜群である。こう感じるだけで鳥居から最初の展望地まではあっという間だった。なんだか体力脚力共々アップしたように感じてしまう。もっとも、今年は例年に増して山へ入っているので、多少脚力はついてきていると思うが、それ以上にこの快適さには軽いことが大きく寄与しているのではなかろうか。
それともうひとつは、足首が自由自在に動いて絶えず接地面を大きく取れることだ。しっかりと路面を捉えるから、スリップはハイカットより起きにくいと感じた。ただ、ソールが薄いので、テン泊のような重装備には不向きだろう。

 ローカットの威力を借りて、いつになく気持ちのいい山歩きである。第一展望地はスルー、第二展望地で上着を脱いだ。歩き出しは寒いくらいだったが、歩き出せばいつのも通り、すぐに汗をかく。
コース外だが、途中にちょっとした小山があるのだが、これまで一度だって足を向けようと思ったことはなかったのに、今回は気分がやたらと前向きで、有無をいわず登ってみた。眺望こそないものの、新たな刈寄山を知ったようで心は弾む。それと例の登山道を塞ぐ巨大な倒木の根も、この半年の間に処理されていて、山道はずいぶんと雰囲気が変わっていた。
巻き道を使わず一気に頂上へ。撮影をしながらでも、腕時計を見れば所要時間は普段より十数分ほど短かった。
頂上のベンチを陣取り、お湯を沸かして好物のチキンラーメンをいただく。カップヌードルを始め、その他星の数ほどあるカップ麺だが、今でもチキンラーメンの右に出るものはない。今回はこれにセブンの“ワサビめし”という最強タッグだ。いつになく空腹感を覚え、一気に胃へ落とした。
低山といえども、スカイツリーより標高のある山頂は、さすがに肌寒い。これも最近購入したモンベルのウィンドブレーカーを取り出し羽織ってみた。生地にそれほどの厚みはなく、とても軽量なのだが、これが意外や暖かい。この季節、ザックに忍ばせれば重宝間違いなし。

 負担の大きい下りも快適に歩を進める。足首の自由度がはっきりと効力として体感できたのは、この下りである。軽く足が出てしっかりと路面をキャッチ、フィーリング的にもこれはいい。ツオロミーブーツの出番は当分なくなりそうな雲行きだ。
今熊神社を通過し、そろそろ駐車場が見えるところまで降りてきた時、一眼レフを肩から下げた年配男性が上がってきた。よく見るとカメラはキヤノンの5D。フルサイズの高級機である。更にベルボンの三脚まで持っているということは、腰を据えて写真を撮ろうとしている証。私のように歩いてはパチ、また歩いてはパチとは勝手が違う。
「こんにちは。いいカメラですね」
「いやいや、もう古いですよ。それにしてもこの辺りは、紅葉、全然ですね」
「この先行っても、紅葉する樹木が少ないかもしれません」
ご主人は八王子在住のYさん。御年七十歳とのこと。目がキラキラしていて若々しい。写真は山岳関係の雑誌で賞を取ったことがあるという。写真を中心に話が弾んだ。
「私はホームページを開設していて、写真はコメントと共にそれに載せるのが楽しみなんです」
「ほ~、教えてください、そのホームページ」
「では“西久保日記”で検索してください」

 なぜか刈寄山では、こうして初対面の方々と挨拶から始まって、簡単なやり取りまで発展することが屡々ある。頂上手前の展望地で、草花のことをいろいろと教えていただいた若い男性。以前はバイク乗りだったが、今では山歩きに嵌っているという七十代男性コンビ。二度会ったことのある、元建築業のご主人。脊柱管狭窄症のリハビリを兼ねて、駐車場~今熊神社間のピストンに励む年配男性等々、皆さん達者にしているだろうか。


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