桜三昧・伊豆の旅

昨年の春は幾多の厄介ごとが立て続けに起きた。
 時間的にも心情的にも遊びに出掛ける余裕などまったくなく、おまけに今年もその流れを引きずる新たな問題が頭をもたげ始めていた。よって恒例にしている桜の撮影行も半ば諦めていたのだが、事態は直前になってやや収束の傾向を見せ始めたのだ。これは千載一遇のチャンス。またなにが起こるか分からないと、さっそく西伊豆の松崎に宿を予約して、一年空いた分を取り返すべく、一泊二日で撮りまくりの桜三昧を決行したのだ。
 
 一日目は熱海から東伊豆へと入り、最初の撮影地に伊豆高原桜並木を選んでみた。
 駅前の有料駐車場に車を入れ、辺りを観察しながら緩やかな上り坂を歩いていく。開花はちょうど満開を迎えていて、延々と続く並木道は春一色だが、ここの特徴はその“延々と続く”ところにあって、決してフォトジェニックな場所ではない。しかもこの並木道は生活道路らしく、ひっきりなしに往来する車の数は多く、こだわりの構図を考えるならば時間帯を考慮する必要がある。

 次に向かったのは南伊豆の青野川。河口近くから下賀茂へ至る両岸には、今まさに盛りのソメイヨシノがきれいに咲き誇っていた。残念ながら日野の菜の花は完全に終わっていたので、桜の薄桃色と鮮やかな黄色のコラボは見られなかったが、ここには河津桜も植えられているので、ひと月ほど早く訪れると、濃いピンクと黄色の競演を見ることができただろう。
 青野川にはパドルボートを楽しむ人もいて、春を飛び越えて初夏のムード満点だ。

 12時を回り腹は減ってきたが、とりあえず昼食は後回しにして、今回一番の目的地である松崎の那賀川河口を目指した。
 松崎市街に入ったのは13時半を回ったころ。国道を右折し、数年前に立ち寄ったことのある“カツカレー”が看板メニューの「いせや」で空腹を満たすことにした。なにしろここの料理は量が物凄い。看板メニューのカツカレーは味の良さもさることながら、見た目からしてガッツリ系。今回は“新鮮な魚介を前に晩酌♪”が第2の目的でもあったので、胃に負担が残らないよう、五目そばを注文した。ところが12~3分ほど待って運ばれてきた丼を見た途端、やっぱりこれもかと、悲しいやら嬉しいやら。野菜だ、チャーシューだ、ゆで卵だと、食べても食べても麺が出てこない。やっとのことで箸が麺を捉えるころには、腹八分を過ぎていた。
 
 腹ごなしもかねて撮影スタート。
 いつもの漁協脇の空き地へ車を置くと、河口から国道までの間をしらみつぶしに歩き回った。うろこ壁とのコラボが映えるソメイヨシノは、やや満開を過ぎていたが、艶やかさは十分だ。2年前に訪れた時の五分咲とは大違いである。
 対岸に渡って被写体探しに夢中になっていると、地元民と思しき老夫婦が近づいてくるのに気がついた。

「そこにね、珍しい緑の桜があるんだよ」
「へぇ~、どこですか」
「そこそこ、それそれ」

 指さす方へ目を向けると、あるではないか、緑の桜が。しかしこれ、本当に桜なのだろうか。ソメイヨシノ多勢の中にひっそりと1本だけなので、教えられなければ気が付くことはないだろう。

「ギョイコウっていう桜だよ。これ、20年前に植えたんだ」

 お父さん、割れんばかりの笑顔である。一見地味な桜ではあるが、よく見れば周りに負けじと一生懸命に咲き誇っているかのようで、微笑ましい。

 16時を回ったころにチェックイン。今宵の宿は「旅宿・炉ばた館」。撮影地に隣接するロケーションなので便利この上ない。せっかくの一泊旅だから、今回は日の落ちた街並みへもレンズを向けてみようと、1時間ばかり仮眠をとった。目が覚めるとちょうど夜のとばりが落ち始めたころ。三脚を担いで古民家周辺へ繰り出した。
 昼間から人通りの少ないところだが、案の定18時を過ぎると殆ど無人といっていいほど。どこへでも躊躇なく三脚を設置できるのがいい。さっそく以前からムードがあるなと感じていた、河口にかかる照明付きの橋へレンズを向けてみた。
 1時間ほどで切り上げると、炉ばた館の隣にある「和食処・心」の暖簾をくぐった。

 翌朝は8時から松崎名物の大規模花畑へ行ってみた。数年前と比べると、作付け面積はかなり小さくなっていたが、それでもこれだけ色とりどりの花が見渡す限りに広がっていると、爽快な気分に浸れるものだ。小さい子供二人を連れたお母さんが、何度も“家族自撮り”にトライしている。何ともほのぼのとしたシーンである。
 一方、那賀川の桜並木は既に散り始めていて、今日明日が撮影のラストチャンスになりそうだ。
 と、その時、風が急に強まり、それに伴い盛大な桜吹雪が始まった。駆け足で花畑を横断し国道へ上がると東へカメラを向けた。絞りをF11にセットすると連続してシャッターを切った。北東の風は辺りの景色を霞ませるほどの桜吹雪を起こし、瞬く間に川面を花びらで埋め尽くしていく。
 この情景をうまく捉えられたかは定かでないが、久々に集中した一瞬だった。

 桜三昧の最後を締めくくるのは、沼津の子持川。この季節に訪れるのは恐らく20年ぶりになる。
 港口公園駐車場へ車を入れ、目と鼻の先にある子持川河口へと急ぐと、期待半分でいた気持ちがいい意味で裏切られた。物凄い咲きっぷりなのだ。河口から上流へと進むにつれて密度を増していく様は、まさしく花園の奥へと入り込んでいくようなイメージ。静岡県下の桜名所をいくら検索しようと出てこない場所だが、写真好きの方々だったら泣いて喜ぶ被写体エリアではなかろうか。水はきれいだがどんよりとした川、何種類もの可憐な草花、古いが大きく瀟洒な家々と相反する廃墟、そしてメインの桜並木と、組み合わせによっては様々な画を切り取ることができそうだ。

 駆け足で回った桜三昧の二日間。撮影枚数も560枚を超え、これは2日間での過去最多枚数になる。もちろんたくさん撮ればいいってものでもないが、次から次へとシャッターを切りたくなる衝動が沸くからこその結果だし、それに大きく貢献したのはα6000の痛快な動きだ。結果も明白で、D600とα6000の撮影枚数比はなんと半々。初めて持ち出した不慣れなカメラでこれほどシャッターを切るとは自分でも驚きである。極めてクイックなAFの動きに駆られて、次々に被写体を追ってしまったのだ。
 久々となるファインマテリアルの追加に、心は踊る、か。
 今年の桜撮影は、大・大・大満足☆

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「桜三昧・伊豆の旅」への2件のフィードバック

    1. 今年の桜撮影はラッキーだった♪
      感動被写体は行動から!だね☆

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