「明日、仕事?」
「休み」
「じゃ、どっか遊びに行こうか」
「ディズニーランドは?!」
「勘弁してくれ」
「それじゃ、富士五湖で手作りがいいな」
3月18日(金)。女房とふたり、山中湖湖畔にある【クラフトの里・ダラスヴィレッジ】を目指した。
思い起こせば8年前。やはりこんな話の流れにより、同じく山中湖畔にある【アントヴ】という体験工房で、サンドブラストで仕上げるガラス工芸を体験し、それが夫婦共通の楽しい思い出として心に残ったのである。
そのアントヴではウィスキーグラスにイラストを画き、今でも宝物として大切に使っている。
「何作るの?」
「シルバー細工。パパは?」
「俺は陶器の絵付けでもやろうかな」
ダラスヴィレッジは、吹きガラスや陶芸などの本格的技術を要するものから、石鹸に柄入りナプキンを貼り付けるアートソープや万華鏡など、誰でも手軽に着手できるものまで、様々なコースを用意してある。
私がトライする陶器の絵付とは、あらかじめ選んでおいた陶器へカラーシールを貼り付けていき、完成したらスタッフに預けて後日釜で焼いてもらい、大凡2週間後に自宅へ届くという仕組みだ。
カラーシールはカッターやはさみで自由な形に切り抜くこともできるが、アルファベット、数字、そしてハート、星、花、動物等々のひな形カッターが用意されているので、絵心に自信のない人でも好きな絵柄を並べていくだけで、見栄えの良い一品を作ることができる。
カットしたカラーシールを水に浸すと、2~3分ほどで台紙が剥がれてくるので、空かさずピンセットでつまみ上げ陶器にレイアウトしていく。厄介なのは陶器とシールの間に必ずと言って気泡が入り込み、これを出来る限り抜かなければならない。何故なら気泡の部分は色が乗り辛いので、結果的にムラになってしまうのだ。
今回はロックを画いてみようと四苦八苦したが、お恥ずかしいことに似ても似つかぬ不細工犬となってしまった。しかし作業は楽しく、あっと言う間に一時間が過ぎ去った。
「どお? あら、いいじゃない」
「変な犬になっちゃった」
一方、女房は何やらウミガメの銀細工をこしらえて、ネックレスにしたそうだ。何れにしても、手作り品は作業も思い出の一部として残るので愛着はひとしおだ。約1時間少々遊べて、二人分の材料代込み込み5,000円強はとてもリーズナブル。しかもスタッフの方々は皆フレンドリーで、手ほどきも丁寧だからとても安心なのだ。
「あ~、お腹すいたね」
気が付くと午後一時を回っている。腹も空くわけだ。
「吉田うどんでも食べにいこうか」
「美味しいの?」
「分かんない。でも、この辺の名物らしいよ」
工房を後に駐車場へ戻ると、湖畔はまるで春のような暖かさ。午後の空気感と相俟って心地よさはこの上ない。
出発して鎌倉往還を河口湖インター方面へ進んでいくと、木々の間から富士山が見え隠れし始めた。麓から頂上へ至るまで全て雪で覆われた真冬の姿は、寧ろ早春を演出して好ましい。
吉田うどんは河口湖インター手前にある【玉喜亭】でいただいた。
ふれ込みでは堅くコシの強い麺とあったが、実際はそれほどでもない。名古屋の味噌煮込みうどんのようなサプライズはなく、普通のうどん屋で出しても違和感はないレベル。
しかしここのうどんは料理としての完成度が高く、掻き揚げ、煮キャベツ、甘辛肉等々のトッピングはどれも丁寧に調理されていて、肝心な麺の食感は非常に良好だ。そして一滴残らず飲み干したくなる汁はリピーターの多さを想像させた。
但、敢えて一点挙げるならば、スリダネの風味がイマイチ。よく利用する河口湖の【ほうとう不動】のそれと比較すると、残念ながらやや個性に乏しいのだ。
料理にアクセントを与える甲州の名物スパイスだけに、もう一歩の工夫が欲しかった。
シーズン前の静かな山中湖。
しかしゴールデンウィークを皮切りに、鎌倉往還の交通量は一気に増えることだろう。