夏・山の蠢き

先月の市道山では軟弱な膝がこれでもかと露見してしまい、あまりの情けさに2~3日は落ち込んでしまったが、よく考えれば、加齢による体力低下を自覚しているにもかかわらず、日頃の鍛錬に甘えが出ていて、これは全て怠慢の結果であると反省した。
そもそもストレッチングや自転車通勤レベルでは、体調管理の足しにはなっても、山レベルでの心肺力や筋力を得られるはずもなく、やはり月に一度位は実際に山へ入って、足腰に負荷を与える必要があると痛感した。
ということで、7月25日(木)、二度目となる“今熊神社遥拝殿~刈寄山”を歩いてきた。
市道山とはスタート地点こそ同じだが、行程は約半分となり、トレーニングには程良いレベルになる。

9時過ぎにいつもの駐車場へ到着すると、一番奥に見かけたことのあるグレーのレガシィが止まっている。
何気に目を向けていると、車から年配男性が降りてきて、ペコっと会釈された。
そうだ彼、先回の市道山の時、登り始めに会った人だ。

「おたくの赤い車、よく覚えてますよ」
「そりゃどうも」
「これからですか?」
「ええ、刈寄山まで行こうかと」
「いいな~、俺は無理だな」

話をすればご主人、実は数年前に脊椎管狭窄症と診断され、山歩きはおろか一般歩行にも支障が出るほどだったが、何とか投薬とリハビリでそこそこなレベルまで復活を成し遂げ、こうして好きな山へ戻れたとのこと。但、頑張っても今熊山までが限界だそうだ。

「ここはよく来るんで、ぜひまたお会いしましょう」

刈寄山までなら気分的に楽である。しかも道は整備され危険な個所もなく、ひたすら足腰のトレーニングに没頭できるところがいい。
先回初めて試した“UONNERカメラクイックリリース”も、左側のショルダーハーネスへ付け替えたら、違和感がなくなりとても使いやすくなった。但しクイックシューの緩みはどうしても起きてしまうので、次回までに滑り止めの薄いゴム板でも挟んで様子を見ようと思っている。

さて、夏本番の山中では、動植物の蠢きをいたるところで見ることができた。
ミミズに群がるアリ、花弁を巻き込む蔓、きれいに開花したヤマユリ等々、目を楽しませてくれる。
こんな時、カメラクイックリリースがあれば歩行中でもさっと外して撮影できるし、カメラが色々なところにぶつかって設定が狂ったり、汗まみれになって不調にならないのがいい。

刈寄山山頂には約2時間で到着。確かにこの程度の行程なら疲労は小さいが、さすがに夏本番とあって大汗は避けられない。それと刈寄山は標高687mと、日の出山と較べても200m以上低いせいか、山道には蚊が飛び交っていた。上着は半袖Tシャツだったので、気がつくと4カ所も刺されてしまった。低山は気温が高いからと言って単純に半袖を選ぶのは間違いのようだ。クールドライのアームカバーを持参すればこの問題も解決するだろう。

人っ子一人いない山頂。先ずは日光が良く当たるベンチにザックと帽子とタオルを並べた。すぐに乾きそうな気がしたからだ。その後は涼しそうな木陰のベンチに仰向けになり暫し目を瞑る。森を抜けてくる風は爽快で、何度となく寝落ちしそうになった。
暫くすると腹が減ってきた。疲労度が低いから食欲も出てくる。おにぎり2個と菓子パン1個を平らげ再び横になると、10分間ほどだったが今度は本当に寝入ってしまった。
僅かな時間でも睡眠できれば疲れが軽減する。汗もひいたので、そろそろ下山とした。
歩き出しからややペースを上げてみたが、膝は快調そのもの。面白いように足が前に出て、先回の市道山とは大違いである。休憩もせずに一気に紙垂手前の見晴台まで下りてきた。
最後のペットボトルを開けて寛いでいると、年配男性が上がってきた。

「こんにちは、これからですか」
「いいえ、下ってきたところです」

どうみても古希は超えていそうだ。しかし小柄で痩せているためか、動きがキビキビしている。

「私はこれから今熊まで行って、そこから車を停めてある変電所まで下りようかなと」

話してみるとこの界隈に詳しいどころではなく、奥多摩、奥秩父はおろか、100名山、200名山の殆どを制覇し、ちゃんとした山行だけで600回以上にのぼるという。登山歴60年というから、年齢を聞いてみると。

「今年で83になりました」
「いやはやお元気ですね」
「もう3,000m級は無理ですが、こうしてトレーニングを兼ねてちょくちょく歩き回ってます」

ご立派。矍鑠とした様子のご主人を見ていると、やはり己の鍛え方にはまだまだ甘さありとつくづく思ってしまう。加齢は避けられないが、その年齢でのベストコンディション作りは努力次第で如何様にもなるということだ。80歳になってもカメラ片手に山を歩けるなんて、ちょっといいじゃないか。


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