奥多摩むかし道

+_DSC06718月15日(金)。T君と【奥多摩むかし道】を歩いてきた。
今回で4度目となる馴染みのハイキングコースだが、手軽に森林浴ができたり、ちょっと寄り道をすれば、ハイカーの気配がないひっそりとした渓流が楽しめたりと、その内容は魅力的だ。

「そこ右ね、入ると右側が駐車場だから」

いつもの鳩ノ巣無料駐車場である。

「駄目ですよ、空いてないみたい」

今までお目にかかったことのない光景である。
利用するのはいつも平日だから、何となく嫌な予感はしていたのだが、ここまでぎっしりとは思ってもみなかった。旧盆注意すべし。

「先へ行こう、氷川に有料駐車場がある」

当初の計画は、鳩ノ巣へ車を置いたら、電車に乗り換えて奥多摩駅までいき、そこからむかし道のフルコースを歩くというものだったが、昨今の山ブームと旧盆休暇を甘く見ていたようだ。
奥多摩駅入口を左折し、橋を渡るとすぐに氷川駐車場があるのだが、やはりここも満車であった。
特にこの日は天気が良かったので、アウトドア好きが一斉に郊外へと飛び出したのかもしれない。

「それじゃ奥多摩湖に車を置いて、そこから逆コースで行こう」
「最後は奥多摩駅からバスで戻ってくるわけか」

非常に大きな駐車場をもつ奥多摩湖。さすがに余裕の空きがあった。
むかし道の登山口に近い水根バス停前の駐車場へ車を置き、V2を首から提げてR411を横断、初っ端から斜面のついた車道を上がっていく。

「ここも山なんだね、涼しいや」

日陰に入ると途端に冷やっとした空気に包まれ、夏真っ盛りを忘れさせてくれる。日頃酷暑に苛まれているT君にとって、これもありがたいご馳走なのだろう。

青目立不動尊まできた時、カーブの脇に立つ“注意書き”が目についた。
読めば愕然、むかし道は大雪による崩落の為、9月いっぱい通行止となっているらしい。いきなり出鼻をくじかれたが、崩落の原因が雪ならば、年頭からずっと人が入り込んでないということだ。
未曾有の大雪はまだ記憶に新しく、時々歩く鳩ノ巣~御岳山もずいぶんと長い間通行止めになっていた。

「駄目だ、戻るしかないですよ」

ルール違反は分かっていた。しかし、何度も歩いて様相を知る道だけに、どのくらいの規模の崩落があったのか、無性にこの目で確認したくなったのだ。

「崩落ヵ所まで行ってみようよ」
「マジすか」
「見たいんだよ、どんな感じか」

+_DSC0790人が入ってこないから、道はけっこう荒れていた。工事に携わる人が行き来するだけなので、そこらじゅうに落石がごろごろだし、大小の折れた枝が散乱していたりと、いつものハイキングコースとは少々様子が異なっている。但、山道への直接的なダメージは既に補修されているようなので、最後まで歩きに支障はなかったが、崩落跡は数カ所にものぼり、最終的な改修にはまだ相当な日数を要すると思われた。

たまたま登山口から一緒だった年輩のご婦人が、草むらでこごみ、小さな花にカメラを向けている。
奥多摩山系を中心に、花の写真を撮るのが好きとのことだ。
写真好きが3人集まると面白い。気が付けば各々がそれぞれのターゲットにレンズを向け、会話が殆どないのに気分だけは盛り上がっている。

「この花きれいだな」

コケがびっしりと覆う大きな岩に小さくて可憐な花が咲いていた。

「それ、イワタバコって言うんです」
「詳しいですね」
「この辺じゃ、けっこう珍しいと思いますよ」

こんなやり取りをしながら中山集落まで登ってきた。
我々二人は周囲の山々や斜面に佇む家並みの撮影を行うことにしたが、ご婦人は留まらずに先へ進むとのこと。
ここでお別れである。

「ありがとうございました」
「とんでもない、気をつけて」

ここから先は下るだけ。車も通る林道を、ひたすらゴールであるJR奥多摩駅を目指すのだ。
“逆コース”は初めてだが、こっちの方が楽かもしれない。緩い上りを延々と行く“正コース”は、ハイキングコースと言えども意外にタフである。

二本目の吊り橋に近付くと、橋の半ばに二人の若い男性ハイカーが目に入った。
橋から渓谷を撮影しようと踏み出せば、注意看板に“橋を渡る際の定員は3名まで”と記してある。

「俺だけ入れないじゃん」

とは、T君。

しかし若い二人はすぐに対岸へ渡り姿を消した。
それに合わせてT君が入ってくる。
暫し橋の上から渓谷の撮影に没頭する。

ー あっち側に何かあるのかな。

+_DSC0692カメラを構えているT君をよそに対岸へ渡ってみると、そこには多摩川へ注ぐ支流があったのだ。その小さな流れが醸し出す冷たい空気は、汗をかいた頬や首筋へ何とも言えない心地よさを与えてくれる。

「おーい、こっちにも川があるよ」

すぐに飛んできたT君は、開口一番、

「ここ、いいじゃないですか!」

既に川縁にしゃがみ込み、下流に向かってレンズを向けている。
大小の岩、緑鮮やかな苔、そして清冽な流れ。
正に被写体だらけである。

ー ちょっと時間をかけるか。

奥多摩は広くて奥が深い。何度か訪れたむかし道でも、ちょっと枝道へ入ってみれば眼前に広がる素晴らしい光景が広がっているのだ。

ケチがついた夏休み

2014-8-11-1歳を取っても夏休みは楽しみである。
今年は十分にゆとりを持たせた山歩きで、思う存分V2で遊べる計画を立ててみた。
その計画とはこんな感じだ。
初日は蓼科の横谷渓谷をのんびりと歩き、その日は茅野のビジネスホテルで一泊。
翌日は須玉ICまで戻って、佐久甲州街道を松原湖まで北上、稲子湯まで進んだらそこに車を置き、しらびそ小屋を経て本沢温泉でテント設営。準備完了後は天狗岳をぐるりと一周し、帰りは白砂新道で本沢温泉へと下る。
翌日は朝のんびりしたあと下山。稲子湯では炭酸泉に浸かり、十二分に疲れを取り帰路につく。
計画を作りながらも、膨らむ想像にニヤケが止まらなかった。

出発は夏休み初日の8月11日(月)に決定。宿の予約もその数日前に取った。JR茅野駅から徒歩10分、【ビジネスホテル・ノーブル茅野】である。いつもどおり夕飯は晩酌を兼ねて地元の居酒屋で済ませるので、場所的にも都合がいい。
しかしここまで準備したところで、台風11号の動きが気になりだした。
四国へ上陸したあと、その動きが途端に遅くなり出したのだ。ウェザーニュースの清里地方を参考にすると、9日(土)、10日(日)に雨風ありで、出発日の11日(月)は曇り、そして翌日12日(火)は概ね晴れ、最終日は曇りと出ている。これなら一応安心できるが、台風の進行が遅くなれば、あとへとずれ込んでくる危険性も出てくる。
但、天候だけはどうしようもないので、前日就寝前の予報を参考にし判断することにした。

ー うんうん、ラッキーかも♪

前日に日本海へ抜けた台風11号。結構な風こそ残してはいたが、時間を追う毎にその影響は小さくなっていった。ウェザーニュースでの最終確認でも、明日、明後日に崩れはないと出ている。そして変ったところは、最終日13日(水)からの数日間が“雨/曇り”マークに変っていたこと。
これはまさに私の山行の為にできた予報と言って過言でない。
最終日に、朝目覚めて即テントを撤収して下山すれば、バッチリの三日間を楽しめそうだ。
8月11日(月)。心軽やかに出発。
中央自動車道は車の数こそ多かったが、何とか滞らない流れを見せていた。
途中、混雑を予想される双葉SAを避けて、手前の境川PAで休憩を取ったが、ここも家族連れを中心にかなりな人混みで、豚骨ラーメンをささっと流してはすぐに出発することにした。
しかしながら甲府盆地、パーキング全体を覆う熱気は尋常でない。

小淵沢ICで下りて、原村を横断するように横谷渓谷へと向かった。
広大な田園地帯は緑一色で、背後にそびえる八ヶ岳、そしてそれを浮き立たせる白い雲が、夏の高原をこれでもかと主張し、思わずエアコンを切ると、サンルーフを目一杯開けてみた。

ー いや~、気持ちいい!!

笑みがこぼれる一瞬である。
“爽快”という言葉が200%当てはまるのは、このようなSituationを指すのだろう。
ラジオのスイッチも切って、小一時間の高原ドライブを楽しんだ。

横谷観音の駐車場へ車を入れ、早速渓谷ハイキングを開始する。
道はすぐに下りとなり、樹林帯に入った。鬱蒼とする道には渓谷ならではの冷ややかな風が流れ込み、瞬く間に汗が引いていく。一応ハイキング道とは称しているが、深山の雰囲気も味わえる本格的な登山道と言ってもいいだろう。
水の流れる音がし始めると、間もなく木々の間から渓流が見えてきた。
小さな滝まで下りたところが撮影目的である“一枚岩”だ。
川の水に鉄分が多く含まれているのか、この岩が妙に赤い色をしており、その上に白い飛沫を上げて水が走る様は、何とも興味深い画となる。
新緑とのマッチングもいいが、恐らく紅葉の頃には目映いばかりの景観が待ち受けているに違いない。
今回は時間の都合上、ここまでの撮影で打ちきりとしたが、今後機会があれば全コースをじっくりと見て回りたい。

一枚岩で撮影に集中している時、背後に何やら気配を感じたので、振り返ってみると、そこには小さな子供二人を連れた若いお母さんがいた。

「すみません、これが王滝ですか」
「私もここは初めてなのですが、おそらくそうだと思います」
「ありがとうございます」

と、何気ない会話を交わしたのだが、
その後、下ってきた道を引き返して、横谷観音直下の分かれ道までくると、道標が目に入った。

ー なに、左へ行くと王滝だと?!

先ほどの一枚岩の川上には確かに滝があった。
携帯していたイラスト風の観光地図によれば、王滝は一枚岩の川上なのだ。
しかしこの地図の距離感を鵜呑みにしたのが間違いだった。
渓谷を下る時にはじっくりと見なかった道標。今になって悔やまれる。
そう、お母さんはにっこしりながら子供達に言っていた、

「良かったね、これが王滝だって♪」

ー ああ、俺は嘘つきになってしまった。

もうちょっと早く気が付けば、引き返すこともできたのに。
なんてこった。

今回の山行。この辺からケチが付きだしたのかもしれない。
2014-8-11-2ホテルのチェックインを済ませ、部屋へ行くと取りあえずシャワーを浴びて一服。
夕飯後は酔っぱらってしまうので、今の内に装備の点検をしておくのだ。
登山の直前は食料の買い出しだけにしておきたい。

準備万端のあとは、楽しみでもある“夕飯”に出掛けた。

「山登りへ行くんでチェックアウトは6時前になるけど、ここ、誰かいます」
「鍵入れの箱をおいておきますので、その中へ入れてください。それからこれ、駅前の地図になります、良かったら使ってください」
「ありがとう、助かります」

明日は5時起きだ。
そんなことを思いながらも、冷たい生ビールはぐんぐんと進んだ。
大好物であるイカの丸焼きや焼き鳥盛り合わせもそれを煽った。
知らない町の何気ない居酒屋で一杯やるのは、旅情を大いに掻き立てるものだ。
撮影した写真や山地図などを酒の肴にちびちびとやった。
酔いも進み腹もいっぱい、そろそろホテルへ戻って温泉にでも浸かろうかと、真っ暗になった夜道を戻っていくと、冷たい夜風が頬に当たり、辺りは既に初秋の雰囲気。
茅野駅のホームへ目をやると、これから東京方面へ帰るのであろうか、3組の登山客がベンチで寛いでいる。間もなくすると闇の彼方からヘッドライトを放ちながら上り中央本線がすべりこんできた。

寒さで目が覚めた。
温泉で火照った為、窓を開けたまま寝てしまったようだ。
時計を見るとまだ4時前である。目覚ましは5時にセットしていたから、もうちょっとだけ眠れる。
明日のキャンプはさぞかし寒いのだろうと考えているうちに、再び眠りに落ちた。

「ピッピー、ピッピー、ピッピー」

ー はいはい、起きますよ。

ビジネスホテルの目覚まし音は心臓に刺さるようで、どうにも好きになれない。
慣れない手つきで音を止めると、今度は違った“音”が耳に飛び込んできた。

ー まさか。

雨音である。それも盛大な降りの音だ。
すぐにPCの電源を入れた。SSD搭載で素早い起動のX200も、この時ばかりはまどろっこしく感じる。
ウェザーニュースをクリックし、茅野市の天気を見た。

ー うそだろ。降雨率80%?!

今度は松原湖の天気を見る。

ー 駄目だ、同じだ。

昨日まで晴れマークが付いていたのに、たった一晩で変ってしまうなんて、そんなことがあるのだろうか。
しかも状況の良かった12日(火)が最も悪くなっているのだ。
パッキングも完璧に済ませ、明日の山行を楽しみにしていたのに、残念な展開としか言いようがない。
朝食用に買い込んでいたパンをかじりながら、一時間ほど様子を見たが、好転する気配は感じられない。それどころか雨足は更に酷くなってきた。

時間の経過と共に、頭の中で“中止”の文字がぐるぐる回るようになると、今年の夏は終わったと思えてきた。
夏休みの天候だけは、ここ数年ラッキーが続いていたので、当然今年も行くぞという強い鼻息があった。
そんな勢いが肩すかしを食らえば、空虚な雰囲気に包まれるのも無理はない。

ー まっ、またトライすればいいさ、、、

ー くっ、そぉ。

2014年夏・茅ヶ岳

梅雨だと言えばそれまでだが、がっかりなことに我が休日は連チャンの天候不良。
せっかく手に入れたNikon・V2も出番が無くてストレスばかりが溜まっていく。
だから首を長くして待っていたのだ、梅雨明けを。

7月24日(木)。
自宅を5時ジャストに出発すると、中央自動車道で韮崎ICを目指した。
今回の目的は、山梨県にそびえる“茅ヶ岳”への登山である。
以前、バイクツーリングを頻繁に行っていた頃、韮崎から野辺山へ抜けるルートとして、広域農道~信州峠を良く使っていたが、その時、広大な田園風景の東に連なる山々に何とも惹かれるものを感じ、愛用しているマップルで、その山の名を調べたことがある。当時はそれほど山に興味があったわけではないが、何度か望んでいるうちに、一度でいいからいつかは登ってみたいとまで思うようになったのだ。

昇仙峡ラインを7kmほど行ったところに駐車場付きの登山口がある。
ちょっと前に到着したばかりだろうか、2台の車の周りでは3名の男性が登山準備の真っ最中だ。一人は単独で40歳前後と見られるベテラン風、もう一方は二人組で、見るところ60代後半だろうか、調達してきた食料や水などをパッキングしているのだが、手際が悪く、ぶつぶつ言いながら出したり入れたりしていて、端から見ても少々心配な感じだ。
単独の方が早々に出発したあと、のんびりとやっているお喋り好きな二人組の会話が耳に入ってきた。

「この間、初めて熊を見たよ」
「へー、そりゃ怖いねー」
「この近くだったから、今日も鈴をつけなきゃ駄目だ」
「あんたがつければ、俺はいらないね」

なるほど、怖い話だ。
先日のTVニュースでも取り上げていたが、今年は全国的に熊の出没情報が多く上がっていて、人的被害も過去最高だそうだ。心許ないが、頼りになるものは鈴しかないので、私もザックに取り付けての出発である。

スタート後はなだらかな林道が暫し続いた。
眩しいほどの緑に包まれながら、少しずつ高度を上げていくのは、体に無理が掛からず実に気持ちが良い。
奥多摩にはない岩のごろごろした山道は、山域が八ヶ岳に近いことを思い起こさせる。
途中、舗装された林道を横断すると、道は細くなって本格的な登山道となる。周囲を見回すと、至るところに見られる大小の岩には苔が生していて、ここでも八ヶ岳界隈に似た光景が広がっていた。

傾斜は少しずつ大きくなっていき、やや疲労が出始めた頃、女岩に到着。
しかしそこには黄色いテープがぐるりと渡していて、“落石注意”の文字が行く手を阻んでいる。

ー 残念だな、ここの水、飲みたかったのに、、

ガイドブックによると、女岩からほとばしる水はたいそう甘いとのこと。
テープを潜って30m前進すれば目的を達せられそうだが、ここは大人になった。一口の水を啜る為にルールを無視し、山の神の怒りにでも触れて、落石がオツムにヒットしたなら、これはどうみてもアホである。
女岩を横目に、とりあえず先へと駒を進めた。

それまでのなだらかな道はここで終り、この先は岩の多い急登となった。
斜面の様子を観察すると、トレポはどうやら邪魔になりそうなので、畳んでザックにしまった。
岩や樹の根をしっかりと掴み、慎重に高度を上げていく。
標高が上がるに従い気温は下がっていくが、反面、吹き出す汗は量を増してきた。体調は悪くないので、恐らく久しぶりの山歩きに体が悲鳴を上げているのだろう。
汗が顎を伝って地面へとしたたり、時々足を止めてはタオルで拭うが、この状況こそ山ならではの快感。汗だくなくして山の楽しさは語れないのだ。

気が付くと、見上げる木々の間に光りが増してきた。

「こんにちは」

尾根道に出たところで、ひと組の年輩夫婦が休憩を取っていた。

「ガイドブックで読むより、ここってきついわね~」
「でも、あと30分ぐらいで頂上だと思いますよ」
「その“もう一息”がしんどいのよ、この歳になると」

奥様はかなりなグロッキーの様子だが、お喋りのパワーはまだだいぶ残っているようだ。
ご主人は横目でこっちをチラ見しながら、すぐ近くでニヤニヤしている。

「おい、いくよ」
「はいはい」

大きなお尻を難儀そうに上げる奥様だが、ご主人の優しい目線から察するところ、とても仲の良い夫婦なのだろう。

「気をつけて」
「ありがとう」

私もここで最初の休憩を取ることにした。
日陰にお誂え向きな木の根があったので、そこへ腰掛けザックの紐をといた。
大好きなセブンの甘納豆と、“パン工房ふたば”で買ったバターたっぷりのクロワッサンを取り出すと、ミネラルウォーターといっしょに流し込む。

ー うまい。

素直な感想。
山中で緑に包まれながらの一服は、下界にない特別な開放感があり、飲むもの、食べるもの、なんでも美味しく感じてしまうのだ。
一方、水の残量を確認すると、2L用意した半分を既に使い果たしていたので、下山時のことも含めて意識する必要がある。

再び歩き出すと、間もなく『日本百名山』の作家『深田久弥』の石碑が見えてきた。
1971年、登山中にこの場所で急逝したそうだ。調べると脳卒中らしい。若い頃は山岳部に籍を置き
、その後も様々な山を歩き回った屈強な登山家であった筈なのに、やはり病には敵わなかったのか。
手を合わせ、先に進む。

頂上直下の斜面に差し掛かった辺りから、白や黄色の可憐な花々が目に付くようになり、数えてみても5~6種類程を確認、さっそく撮影開始とすることにした。
すぐに構えられて、クイックフォーカスなV2は、こんなsituationで強力な武器となる。10-30mmのCXレンズも構図が決めやすく、当分の間はこれ一本でも充分だろう。
一気に30枚ほど撮った後、目と鼻の先にある頂上へと踏み込んだ。

「こんにちは」

さすがに平日、岩が適度に配列され、寛ぎやすい頂上には、二名のご婦人しかいない。
ちょっと大きめな岩の上に立ち、ぐるりと周囲を見渡すと、少々ガスが張ってはいたが、360度方向、なかなかダイナミックな景観を楽しむことができた。ラッキーなことに富士山もガスの上に浮かんで見えるではないか。
頂上を舞う風は爽やかで、みるみるうちに汗が引いていく。
残りのクロワッサンと鮭のおにぎりで昼食タイムだ。

最初はなだらかで、徐々に傾斜を増す優しい山道、そして標高と共に変化する景観と草花。
この茅ヶ岳は難しいところがひとつもなく、特にビギナーハイカーの方々にはうってつけの山ではなかろうか。
写真撮影メインの私にとっても、変化があるこの山には予想以上の興味を覚えることができ、秋の紅葉シーズンにはどの様な様変わりを見せてくれるか、今から楽しみなってきた。

初めて山歩きに持ち込んだV2。
肩に掛けて何時間歩いても全く重量を感じることがなく、少々の岩場でも邪魔になることはない。
本格的な撮影性能を持ちながら、撮りたい時にすぐ構えられるキャラクターは、今回はっきりと証明されたわけで、街中スナップはもちろんのこと、今後の登場回数はますます増えていくだろう。カメラ性能に於ける機動力は本当に重要なポイントなのだ。