石廊崎

石室神社

ご存じ石廊崎は伊豆半島の先端だ。
突端に立てばアールしている水平線を見ることができ、そのドデカイ眺めはこの上なく気分を爽快にしてくれる。

ー 海は広いな大きいな。

広くて大きいだけではない。
石廊崎は個性的なロケーションに囲まれているところも大きなポイントなのだ。石廊崎港はその良い例だと思う。
断崖絶壁に囲まれる深い入り江に造られた港は、それ自体が既に画として成り立っていて、季節そして時間帯毎に変化する陽光が辺りを幻想的なムードに彩る。
一方、入江の西側に当たる石廊崎灯台バス停から出発するハイキングコースでは、スナップ魂に火が付く“寂れ感”を味わうことができる。入口左側にある朽ち果てた土産物屋跡を目の前にしたら、瞳を閉じて数十年前に思いを馳せてみよう。そこには溢れんばかりの観光客で活況を帯びる駐車場のシーンが広がる筈。そう、ここは紛れもない人気スポットだったのだ。

ジャングルパーク跡の脇を抜けて突端に向かって歩いていくと、道は下っていき、終いには階段となる。降りるほどに白波を上げる荒々しい磯が眼前に広がり、最も石廊崎らしい姿に思わずカメラを向けたくなるが、ここは注意が必要だ。凪ることが滅多にないこの突端周辺は、強風と激しい波が常に押し寄せてくるので、ややもするとレンズはたちまち潮でベトベトになってしまうのだ。撮影にはこの点を考慮して臨みたい。
そんな中、更に石段を下っていくと、切り立った断崖に建つ神社が忽然と現れる。
海の守り神“石室神社”だ。

ー こんなところにね。

初めて訪れたときは、ずいぶん凄いところへ建てたものだと感心したが、見慣れればこの大海原の景観に妙に溶け込んでいることに気がつく。この神社と更に先へ進んだ突端にある祠、熊野神社を構図に入れて何度も撮影にトライしたものだ。
因みに熊野神社には縁結びの御利益があるそうで、以前ショップのツーリングで寄った時、CBRのHさんが手をすり合わせて、

「結婚できますように」

とやっていたが、いまでは幸せな家庭を築いているので、これは“本物の力”ありと言っていいかもしれない。
伊豆は本当にいいところだ。

伊豆スカイライン

十国峠

RZを乗り回していた頃は楽しかった。何も考えず、ひたすらバイクライディングに没頭できたからだ。色々な峠で味わった胸の空く加速とエキサイティングな排気音は一生忘れることがないだろう。
1982年に中古車で手に入れたヤマハ初期型RZ250は、すぐに私の“きんとん雲”となり、休日で天気さえ良ければ決まって伊豆まで足を延ばし、伊豆スカイラインを中心にワインディングランを大いに堪能したものだ。
バイクライフの楽しみ方は人それぞれ。ツーリング、街乗り、オフロード、コンペティション、メカいじりと色々あるが、私は何より“峠走り”が好きだった。
当時はロードレースが国内外共々最高潮な盛り上がりを見せ、レースクラストップであるGP500では、ケニー・ロバーツとフレディー・スペンサーによる王座争いがエキサイティングに伝えられ、速報を載せるバイク雑誌の発売日が待ちきれないほどだった。そしてRZに乗り出した直後に封切となった角川映画の『汚れた英雄』も、また多くのバイクファンにインパクトを与えた。主人公“北野晶夫”を演じる草刈正雄が余りにもかっこよく、それまでバイクに興味がなかった人でさえ、一度は乗ってみようと思わせるほどの影響力があったのだ。
今でも良く覚えているが、この映画は荻窪の映画館に弟と観に行った。
私が興奮したことは言うまでもないが、おとなしい性格を持つ弟の目がギラギラと光り出したのには驚いた。

「なんか、峠に行きたくなるね」

バイクこそ乗ってはいたが、彼のバイクライフに“峠”はおおよそ不似合いな言葉だったのだ。

「伊豆スカかい?!」
「うん」

ご存じの方も多いと思うが、伊豆スカイラインは伊豆半島縦走する有料道路。全長は40kmにも及ぶ伊豆の大動脈だが、あくまでも“有料”ということで、特に平日の交通量は極めて少ない。
長い直線を繋ぐ幾多の高速中速コーナーは、まるでサーキットを思わせるダイナミックなもので、RZほどのバイクでは屡々タコメーターの針がレッドゾーンへ飛び込んでしまう。スロットル全開で攻められる峠道は箱根ターンパイクも有名だが、コースがあまりにも高速へ振ってあるのでスポーツ走行となると面白みは小さい。その点伊豆スカは、ライディングテクニックと工夫なくして攻略のできない、良い意味での面白さに溢れていた。これはサーキットに限りなく近いもので、普段からGPレースに憧れているライダー達にとってはこの上ない峠道となっていたのだ。
亀石パーキングを勢い良く飛び出し最初の左コーナーをクリアすると、長い直線が空へと向かって延びている。RZでは各速全開に引っ張って140km/hがマキシムだが、その高速域から緩やかな右コーナーへと至るプロセスはGPシーンを彷彿とさせる感動を味わうことができる。
弟と私は亀石パーキング~玄岳間の11.5kmが得にお気に入りで、最低でも月に一回程は、貸切りサーキットのようにここで遊んだ。
因みに弟の愛車はヤマハ・XJ400で、ホンダのCBX400Fが発売されるまでは、ネイキッドクラス№1の実力と人気を誇っていた。

ページトップの写真は、伊豆スカイラインの十国峠パーキングから撮影したものだ。

西湖から眺めた富士山

富士山

皆に愛され、皆がレンズを向ける富士山。私もこれまで様々な富士山を撮ってきたが、その雄大で美しい姿は眺める度に姿を変え、常に新たな魅力を放ち続けている。とうぜん被写体としての可能性は無限大であり、写真はもとより、あらゆる芸術に対して多大なる影響を及ぼしていることは歴史が証明している。

さて、写真仲間が楽しみにしている“恒例年末撮影会”。実施前には宿泊地や撮影ポイントの打合せがあり、この段階からイベントとしての盛り上がりを見せる。
但、参加者に希望を募ると、毎度、

「おまかせします」

とくる。

「そっか、それじゃ今回も宿泊地は寒くない伊豆だな」

こんな流れで十数年間、変らずの場所に落ち着いてしまうのだ。
ところが撮影ポイントの話に及ぶとちょっと様子が変ってくる。

「やっぱり富士山は撮りたいかな。あとはおまかせでいいけど」
「朝霧に入る手前も魅力だよね」

これは分かる。
その年を締めくくる撮影イベントに富士山は最も相応しい被写体だからだ。
山中湖北岸、三国峠、西湖、本栖湖、朝霧高原、富士山スカイライン、伊豆半島西海岸等々、これぞと思う画を求め、何度となくトライはしているが、納得できるものは意外や少なく、何れもベタで面白さに欠けてしまう。しかしそんな中、6年前に西湖からレンズを向けていたときの出来事は興味深かった。沸き上がってきた雲や、その隙間から差し込む光りの影響で、それまで平凡だった富士山に自然の絵筆が加わり、瞬く間にPhotogenicな光景ができあがったのである。
連写したのは言うまでもなく、無我夢中で10枚ほど撮った中の一枚が冒頭の写真だ。

写真好きな中年男の独り言