麻生山・つるつる温泉はR184沿い?!

 真夏か?!そう思えるほどの熱波が山肌を覆った。
 四月十三日(水)。連休唯一の晴れと出たので、新たな山でも歩いてみるかとPOLOを走らせた。

 何度立ち寄ったか覚えてないほど馴染みのある日の出山頂。御岳山~日の出山~梅ノ木峠と、縦走の一通過地点ではあるが、眺めがよく、小さいが東屋もあるので、格好の休憩ポイントとしてよ常々利用してきた。西武ドームから新宿副都心、条件が良ければスカイツリーまで望める大展望は飽くことがない。ただその際、右手に円錐状で形の良い山がいつも気になっていた。逆にその山から日の出山を眺めたらどんな感じであろうかと、その山、つまり麻生山へ登ってみた。

 スタートは白岩の滝。路肩だが町が指定する駐車スペースがあり、五~六台なら問題なく停められそうな広さだ。“白岩の滝遊歩道”と称する山道は、渓流に沿って延びているので、涼しく快適。また目を楽しませてくれる変化にも富むのだ。
 最近どうにも調子がいまいちな膝。こいつをカバーするため、トレポを最初から使うことにした。連続する上りで大汗をかきながらも、両腕が疲れてくるほどグリップへ力を込め続けた。

 渓流沿いの道が終わり、一旦林道に出て再度森へ入り込むと、途端にムッとする空気感に変わる。とてもではないが四月の中旬とは思えないほどの強い日差しだ。樹林帯は日陰で涼しいが、尾根筋に出ると、すぐさま汗が噴き出てくる。ここまで気温が上がるとは思わなかったので、用意した水は500ml×三本。この汗のかきようだと恐らく足りなくなるのではと、ちょっと心配になってきた。
 六名のオフローダー達がが休憩していた麻生平を通過すると、まもなくして麻生山への道標が現れた。頂上直下からはどこでもそうだが、急登になる。斜度がきついうえに乾いた土なのでスリップしやすい。
 頂上からの見晴らしは日の出山のそれと甲乙つけがたい素晴らしいもの。その日の出山や梅ノ木峠が真正面に見える。相変わらず日差しは強いが、ここは風が通るので多少過ごしやすい。奥多摩の山々へはけっこう分け入っていると思っていたが、まだまだ良いところはたくさんあるのだ。
 大昔に一度歩いたことのある金毘羅尾根から日の出山へと向かった。東側が開けているので、山々の斜面に開花真っ最中の山桜がよく見える。しばらく行くと日の出山の取りつきに出た。あとひと踏ん張りだ。

 七名の男性グループ、単独男性一名、夫婦者三組、年配女性ペア一組と、相変わらず日の出山の山頂は賑やかである。梅ノ木峠方面、五日市方面、そして御岳山方面と、様々なルートがここで交わり、且つ眺めの良い休憩ポイントだからこの賑わいにも頷ける。うまいこと東屋のベンチが空いたので、涼しい日影で昼食をとることができた。南へ目をやるとさっき登った麻生山が見える。結構な距離感があるのだが、山道が良く整備されていて歩きやすく、ここまでストレスなく辿り着けた。それにトレポのおかげか、膝に痛みは全く感じず、脚の筋肉疲労もすこぶる小さいので、気分的にはずいぶんと余裕が生まれた。

 日の出山登山口バス停まではひたすら下りである。露出する木の根は若干多いものの、山道に荒れたところはなく非常に歩きやすい。膝の好調もあっていつになくペースが上がった。
 一時間もしないうちに山道が終わり、舗装路に出ると、道沿いにたつ小屋が目に入った。通過する際に入口へ目をやると、何やら焼き物の食器が無造作に置かれていて、“どれも100円”と記した札がある。興味を惹かれて入ってみると、ありきたりな食器ばかりでどれもろくなものではない。ところがふと左手を見ると、魚や亀の形をした、楊枝入れ?、はたまた箸置き?のようなものが籠にたくさん盛られている。ぱっと見には面白そうだったが、よく観察すると奇怪である。買おうかどうしようか一時悩んだが、ザックをおろして財布を出すのも面倒だし、またここへ来ることがあればその時は買ってみようと、再び歩き出した。
 あとは私を待つPOLOを目指して一直線だが、この舗装路歩きが単純で面白くない。救いは道に沿ってきれいな川が流れていたので、時々その流れに目をやり気を紛らわした。
 しばらくすると大きい道路との交差点に出た。案内表示があり、左へ折れるとつるつる温泉とある。実はここで大きなミスを犯してしまったのだ。“つるつる温泉はR184沿いにある”と、何故か鼻っから思っていたのだ。だからこの交差点を左折し、つるつる温泉の先にある日の出山登山口バス停を目指したのだ。ここまですっと下りだったのが、左折してからは一転上りに変わった。この時「上り?」と、ちょっと違和感を覚えたが、頭の中にある<つるつる温泉~日の出山登山口バス停~白岩の滝入口>は確固たるものだった。長く歩いた後の上りは正直きつかったが、もうすぐゴールという一念で最後の力を振り絞った。

 ところがである。視線の先に遮断機が現れたのだ。もちろん通行止めのそれである。ちょっとだった違和感が膨らみ始めた。「ちょっと休憩しよう」。残っていた最後の水を飲み干し、ポケットから地図を取り出す。老眼なのでA3まで拡大した見やすい地図だ。落ち着いてルートを辿ると、「え?! マジかよ」。確信していた“つるつる温泉はR184沿いにある”が実は間違いだったのだ。このままずっと行くと、九十度の方向ミスになり、な、なんと梅ノ木峠へ至ってしまう。何のためにこんな見やすい地図をわざわざ作って持ってきたのか、あまりに情けない自分に嫌気がさしてきた。こんなことではいつか遭難してしまうに違いない。
 十分間ほど道にへたり込んだ後、一度深呼吸してから立ち上がり、今上がってきた道を今度は下って行ったのである。

ミツバツツジとトレッキングポール

 東京も八王子の川口辺りまでくると、ソメイヨシノもいまだに元気がよく、最高の見ごろを迎えていた。桜だけではない。梅も然り、その他の春の花も待ってましたとばかりに開花していて、秋川街道はまさに花の街道を呈している。
 暖かい空気を頻繁に感じ始めるこの頃、西の山々ではツツジが開花し始め、大塚山の花のトンネルを思い出す。ただ、それを見る前には足の馴らしが必要なので、今熊神社のミツバツツジを愛でつつ、刈寄山へと登ってみた。

 案の定、駐車場はほぼ満車だったが、いつものトイレ前に空きを見つけたので、すかさずPOLOを停た。珍しいことに、駐車場の脇にはテーブルをいくつか並べた、地元産野菜の即売店が出ていた。ミツバツツジを求めてそれだけ多くの人々が訪れるということだろう。
 登山道へ入る前に、まずは境内の撮影を行った。薄桃色の桜と紫色のミツバツツジのコラボは季節の移り変わりを表していて、心が躍る。

 歩き出してまもなくすると、着実な森の変化を見ることができた。全体的にはいまだ冬枯れと言っていいが、その中に艶やかな若葉がいたるところに顔を出しているのだ。二カ月前には一輪も見つけることのできなかった花も、まだまだ少ないとはいえ開花が始まっている。可憐さの中にある力強さを感じてしまった。

 八王子地区の天気予報を参考に、着ていくものを選んでみた。ノースリーブのアンダーの上に長袖シャツ、下はストレッチのタイトスラックスにSALEWAのローカットシューズと完全に春の装いだ。これがドンピシャ。日の当たらないところではちょっとヒヤッとするが、それほど汗をかかなかったので寒いと感じることはない。頂上へ至るまでの間、実に気持ちのいい山歩きとなった。

 なかなか治らないのが右の膝痛。今回も登り始めに痛みが出た。あまり酷くなるようだったら引き返そうとも考えたが、十五分から二十分ほど歩くとかなり痛みが軽減されので、そのまま頂上を目指すことにした。ただ、あまりダメージを重ねたくなかったので、下山時にはトレポの出番となった。
 つい最近、ザックの中へすっぽりと入る折り畳み式のトレポをAmazonで購入した。トレポはザックの外側に取り付けると、電車に乗る際かなり邪魔になることがあり、新たにコンパクトなものを追加したかったのだ。価格は二本セットで\3,099と破格。無名メーカーだが、意外やレビューが上々だったので、これでいいやとポチッとした。受注生産らしく納期には三週間を要したが、届いてみると作りは満更でもない。ただ、実際に山で使ってみたらなんとなく重く感じた。ただ、メインで使っているのがkarrimorのカーボン製なのでそう感じるのも無理はないが、この使用感は若干気になるところ。キッチンスケールで正確な重量を計ってみると、無名メーカー:277g(一本)、karrimor:195g(一本)と出た。もっとも、一本150gほどの商品はモンベルでも販売しているが、その価格は二本セットで\12,000を超える。そう考えれば今回の無名品は文句なしのCPと言える。それに電車で行く山歩きにしか使わないのだから、耐久性も特段心配する必要はないと思う。

 肝心な効果はしっかりと現れた。若い人や脚力に自信のある人だったらトレポは不要かもしれないが、私のような年配者や膝に問題がある人にはぜひ試していただきたい商品だ。一般的にトレポの効果は<歩行の推進力アップ”や“バランス保持>と言われているが、これまでの経験から、確かに前へと押し出す力ははっきりと自覚できるし、足元の悪いところでは度々助けられている。しかし一番効果ありと断言できる場面は下り。一歩踏み出す直前にトレポで着地点周辺を支えておけば、確実に軸足の大腿筋の負担が減る。着地する際の衝撃は、後ろ側、つまり軸足の大腿筋の力で支え低減させるのだから、それは理にかなう。ステップが大きめのところは特に実感できるだろう。衝撃の緩和は膝の負担を減らすことになるのだから、大いに注目すべきだ。

冬枯れの刈寄山

 寒い毎日が続いている。今期の冬はとりわけ寒さが骨身に染みる。
 通勤には相変わらず自転車を使っているので、季節の移り変わりはダイレクトに肌へと伝わってくるのだが、走り出して十数分経つと、手と足の指が冷たさを通り越して痛くなる。これでちょっと風が出てくれば耳まで痛み出す。早く春がやってきて欲しいと心の底から願う今日この頃だ。ただ、寒い寒いとは言っても、引き込んでばかりはいられないので、一昨日の二月八日に、冬枯れ真っただ中の刈寄山を歩いてきた。

 駐車場へ到着すると一台も車の姿がない。これは珍しい。いくら季節外れのウィークデーでも、大概一、二台は停まっているものなのだ。いずれにせよこれはウェルカムである。森を独占する静かな山歩きができると期待は膨らんだ。早速出発準備を始める。
 最近手に入れて、連荘で使っているローカットシューズは家に置いてきた。さすがに足元が寒そうで使う気になれない。履き慣れたモンベル・ツオロミブーツの紐をきちっと締めこむ。ズボンは冬用の防寒タイプにしたが、上半身は半袖肌着にネルシャツ、その上がウィンドブレーカーとやや薄着。おそらく歩きだせばこれでちょうどいいはずだ。

 頂上手前にある、南方面を俯瞰できる展望地に上がると、足が止まった。空気が澄み切り、これまでにない遠景を眺めることができたのだ。富士山の姿がなかったのは残念だが、山系の広さと深さが良く分かる素晴らしい眺めに変わりはない。同じ山道を歩いても、景観、そして感じるものはいつも違うから面白くなる。
 刈寄山山頂に到着すると、持参したダウンジャケットを羽織り、さっそくお湯を沸かした。今回のランチはいつものチキンラーメンとセブンのおにぎり二つ。何てことない食べ物だが、こうして五日市の街並みを眺めながらのランチなら、山歩きの空腹も手伝い、それはそれは極旨メニューに変貌するのだ。

 今回のカメラはCyber-shot RX100M3。インチセンサーにEVF付きという、コンデジながら装備に不足はない。画像処理エンジンは“BIONZ X”。こいつの処理能力はかなりイケてる。コントラストの後処理などは殆ど要らずの高性能。躊躇なくシャッターを切っても白飛び黒飛びが少なく、その意味合いでもシャッターチャンスにすこぶる強いのだ。もちろん色味も好み。あくまでもナチュラルなところはニコンのそれと似ている。

 山歩きと写真撮影のコンビネーションは、年間を通してもっぱらの遊びになっているが、二月と言えば、南伊豆をパッと明るしてくれる菜の花と河津桜が咲き誇っているはず。宿を取ってじっくり構えてみようか。