庭の花々

花々

我が家の庭にドクダミの若葉がわさわさと顔を出し始める頃、同じくして可憐な色彩をアピールする花々が続々と開花する。
これまでなぜか隔年でしか開花しなっかったモッコウバラが、昨年に引き続き今年も見事な開花ぶりを見せ、玄関回りを明るくしてくれた。
薄紫色の花弁にすらりと伸びた緑の茎がとてもキュートなのは、親戚からいただいたラベンダー。仄かな香りが心を和ませる。
ドクダミの葉の間から顔を出すタンポポは、その鮮やかな黄色に大きな活力を窺え、眺めているだけで元気をもらえそうだ。
そしてお後に控えるのは、昨年鉢植えから直に庭へ植えなおした、その名もお洒落なアジサイ・ダンスパーティー。既に小さな蕾がスタンバイしていて、今から開花が楽しみである。

若い頃・デニーズ時代 16

「西條さん、そろそろ上がって下さい」

西條リードクックは早番だから、正規の退社時刻は午後3時半。ところが時刻は既に5時を回っており、ブレークも取らずに真剣な眼差しでプリパレのチェックを行なっている。

「うん、確認が終わったら上がらせてもらうよ。あとは金城さんに任せるかな」

遅番の応援スタッフである金城さんは本部付けのクックだ。近頃の新店ラッシュの煽りを受けて、全国津々浦々へ飛んでは、こうして開店フォローに当たっているとのこと。西條リードクックとは、以前、神奈川地区で一緒だったらしく、ブレークの時などは昔の仲間の話で盛り上がっていた。

「夜は元気なクックが4人もいるからバッチリですよ」

キッチンは西條さんの指示で、プリパレや各所の補充は完了しており、あとはディナーピークを待つばかりだった。
一方フロントは、各ステーションに3名の新人MDと応援MD1名が配置され、DLも含めれば総勢13名という十二分な人員が配置されていた。もちろんそれにUM、UMITがいるのだから、ウェイトレスステーションに至っては満員電車の様相である。
しかしこのザワザワとした雰囲気はオープンという大イベントが醸し出す特別な空気感であり、そこにいられる嬉しさはこの上ないものだが、同時に大きな責任を背負ったという現実がのしかかる。

「みんないいですか、グリーティングは明るく元気に! オーダーの復唱は確実に! ウェイトレスコールはきちっと確認! そしてバッシングとセットは積極的に!」
「はい!!!」

フロントメンバーの気合が入ったミーティング。
その迫力はディッシュアップカウンターを越えて伝わってくる。スタッフが一丸となった雰囲気は格別な爽快感があり、オープニングメンバーの一員になれた喜びが沸き上がってくる。
それから大凡30分後。来店客が徐々に増え始めてきた。

「いらっしゃいませデニーズへようこそ!、何名様ですか?」
「えーと、5人かな」
「かしこまりました、ご案内いたします。こちらへどーぞ」

ディナータイムとランチタイムとの大きな差は、ワンチェック当たりの品数とピーク時間の長さだ。
ランチは殆どワンチェックに1品か、精々同じランチが3品程度で、急激に盛り上がるピークが一時間強続くが、一方ディナーはワンチェック当たりに複数且つ様々なオーダーが入り、正弦波のようなピークが3時間近くも続く非常にタフな戦いになる。
例えばワンチェック5~6品が一度に数枚入れば、もうキッチンは蜂の巣を突いた状態だ。

「ワンシェフ、ワンツナ、ワンコンボ、ワンピザ!」
「続いて、ツーマルワ、ワンハンバーグシュリンプ、ワンシェフ!」
「もういっちょういきます! ツーマルワステーキ、ワンツナ、ワンエフエフ!」
「ましたぁ=====!!!」
「おっ!またきたぞ! ワンコンボ、ワンクラブサンド、ツーエフエフ!」
「間違いなくちゃんと落とせよ!」
「ました!!」

的確な指示をだせるセンターがいなければ、ディナーピークはこなせない。その点、金城さんは素晴らしい能力を持っていた。小金井北UMITの濱村さんも全体の流れを把握しながら、上手にフォローを入れてくれたが、金城さんはまたそれとも違って、クックの気持ちを煽るというか、猛然とディッシュアップに集中できる場の雰囲気作りが巧みなのだ。だからキッチン中に安心感が溢れ、作業に対して迷いが出にくい。

ー ピンポーン!

「岡本さ~ん、シェフが出たから先に持ってって。それとビールはもう行ったかな?!」
「は、はい、ビールは今から持っていきます」

MDの岡本美子は、今時珍しい化粧っ気のない女子大生だ。出勤時も地味なブラウスに紺のプリーツスカート姿と、他の若いMD達とはちょっと違った印象の持ち主だ。性格は緊張するタイプなのだろう、先ほどのフロントミーティングの際も、皆が笑顔溌剌でグリーティングの練習を行っているのに、一人強ばった表情を崩せなかった。

「いいかい岡本さん、ビールは真っ先だよ。それと、シェフはドレッシングも忘れないでね」
「はい」

金城さんはセンターをやりながらも、ディッシュアップカウンター越しに新人MDへ対し的確なアドバイスを行っている。

その時だ、プレートの割れる音がレジの方向から盛大に飛び込んだ。
同時に西峰かおるが泣きそうな顔をしてディッシュアップカウンター前にやってきた。

「すみませ~ん、ワンライスお願いします」
「慌てなくていいんだよ」

誰かと接触した際にライスを落としたそうだ。レジの脇は1番ステーションと2番ステーションへの出入り口になっていて、スタッフの行き来が最も頻繁になるところだ。

「下地、ライスそろそろセットしよう」
「ました! 着火します?」
「いや、まだいい」
「それから太田さん、ピザとクレオールの残りは?」
「どっちもまだワンシートあります」
「OK、それじゃ至急トスサラとサラダ菜をワンコン作って」
「ました!」

ディナーではサラダの注文が多い。私はコールドテーブルを担当していたが、見る見るうちにトスサラダが減っていく様には驚いた。3名以上のチェックには殆どシェフかツナサラダが入ってくる。
それにしても開店のディナーピークは凄い。20時を過ぎたのに一向に客足が途絶えない。

「みんな頑張れ! このペースなら来店客数800名はいくぞ!」

ギョロ目の井上UMがいつの間にかキッチンの横に来ていた。朝から立ちっぱなしでフロントで指示を出しているので疲労がありありと顔に出ている。

「井上さん、頑張りますね。あとはうちらに任せて上がってください」
「ありがとう。ウェイティングが切れたらそうさせてもらうよ」

それから1時間。これでもかとオーダーが入り続け、一時はチェックが10枚以上も並んでしまったが、金城さんはさすがだ。こんな時も冷静にどれから順番に上げていけばスムーズにこなせるかを把握している。一時ディッシュアップが遅れ気味になったが、そんな時はMDにこんな指示も出した。

「みんな、コーヒー回ってる?!」
「はい、行ってきま~す!」

料理の遅れでイライラするお客さんの心理を考慮し、MDにはなるべくフロントを回らせ、お客さんから声を掛けられやすくするのだ。
この一度のディナータイムにどれだけ多くのことを勉強したか、それは計り知れない。

「小田さんはそろそろ上がってください」
「すみませんね、それじゃお先に上がらせていただきます」

フロントもやっと落ち着きを取り戻し、21時上がりのMDが続々とキッチン脇からバックへと引いていった。

「お疲れさまです」
「あれ、西峰さんも上がり?」
「はい、上がらせていただきま~す」
「初日はどうだった?」
「なんだか分けがわからないうちに終わっちゃいました」
「そっか、、明日も頑張ろうよ!」
「はい、お願いします。それじゃお先に♪」

上がっていくスタッフたちは皆疲れているはずだが、それぞれにやり切った表情が出ていて、それを認めるたびになんだか嬉しくなってくる。チームで事をなす充実感が否応なしに感じられるからだろう。
さて、遅番クックはここからが大変だ。戦場となったキッチンは汚れに汚れ、それは荒ましい。
しかしここできちっと〆の作業を行わなければ、明日、そして今後に影響が出てくるのだ。

「木代、下地」
「はい」
「俺がオーダー受けるから、二人で〆の方、よろしく頼むよ」
「ました!!」

大塚山~御岳山

ミツバツツジ

4月15日(金)。今年一発目となる山歩きを楽しんだ。古里から大塚山~御岳山と上っていき、頂上の集落で一服の後は、大楢峠経由で鳩ノ巣へ下るというコース。
標高1000mにも満たない御岳山だが、ケーブルカーを使わずに、麓から出発すれば立派な山歩きになる。
流れ出る汗、悲鳴を上げる腰と脚、、、
なまった体には少々ハードだが、一方、疲れ果てた精神には、一服の清涼剤となるところがGoo☆

澄んだ空気を目いっぱい吸い込める芽吹きの森はこの上なく爽快である。眺望は樹林越しになるが、咲き始めたミツバツツジがとても可憐でついつい見とれてしまい、気がつけば大塚山山頂へと到着した。
見回すとざっと数えて15~6名のハイカー達が休憩中だ。それまでの静けさが嘘のような活況ぶりである。
ここは御岳ケーブルカーの頂上駅から目と鼻の先という立地が影響してか、いつ訪れても賑やかだ。
但、団体でワイワイやるのは大いに結構なことだが、メンバーの中の50歳代と思しき3名のご婦人が、頂上とそれほど離れていない藪の中で、堂々と用足ししている姿には唖然とした。おまけに寸前で半ケツを見てしまうところだったのだ。
とにかくおばさんのお尻はいただけない。

愛機Nikon1・V2は、山中ずっと肩に掛けていたが、全く重量を感じさせなかった。
だから山行でのシャッターチャンスには滅法強く、更に今回はトレポなしと決めていたので、絶えず両手が空き、カメラを構えるまでは一瞬である。
ところが御岳の山々、新緑に向けて様々な樹木の芽吹きが始まってはいるが、全山緑一色にはまだ早く、大塚山の尾根筋あたりは山肌が出ていて寒々しい。ミツバツツジ以外には目ぼしい開花が見当たらず、被写体探しは難こうした。
渓流でもあればバリエーションも広がるだろうが、あいにくルート上にはごく小さなせせらぎしかなく、それも水量が乏しくて題材にするには無理があった。

足慣らしが第一目的だった今回の山歩き。
よく歩く日の出山コースよりも更に短かい全長を設定したのに、何と下山の途中から左膝が疼き始めた。
急峻な瑞牆山でもびくともしなかったのに、冬場を越しただけで元に戻ってしまうとは何とも情けなくなる。仕方がないが、夏山シーズンに向けて、あと2~3回はこうした足慣らしを行う必要がありそうだ。

写真好きな中年男の独り言