熊と奥多摩

昨年の4月に鷹ノ巣山へ登った時のことだ。
毎度のように、木曜日登山は人の気配を気にせずにのんびりと自然に浸ることができる。アウトドアを堪能するならやはり平日がベストだ。
延々と続く稲村尾根の登りを終え、頂上で一人昼食を楽しんでいたら、年輩夫婦が石尾根の西側から上がってきた。

「こんにちは」

吐く息の白さが、春への足踏みを感じさせる。

「いや~驚いた、初めて熊を見ました」
「そりゃ怖いですね」

この頃では【熊出没注意】の看板を見ても何も感じなくなっていたので、同じ登山者からの赤裸々な情報を聞くと身が引き締まる。

「熊鈴はやっぱり必要です」

同感である。一般的な野生動物は人間が嫌いだ。よって鈴などを鳴らして自分の存在を察知してもらえるように歩けば、わざわざ熊の方から近寄ってくることはまずない。
但し、“出会い頭”は非常に危険。至近距離で突然出会すと、熊はビックリして猛然と攻撃を仕掛けてくることがあるからだ。大型犬より大きく、野生の殺傷能力を持つ熊の攻撃を躱すのは不可能に等しく、大けがまたはそれ以上を覚悟しなければならないだろう。
しかし、最悪なシナリオはあくまでも熊を驚かせることから始まるのであり、これを極力無くすよう工夫すれば怖がる必要はない。

平成25年度・奥多摩地区ツキノワグマ目撃情報
目撃件数21件
被害人数0人
平成25年度・全国ツキノワグマ人身被害情報
被害件数42件
被害人数52人
平成25年度・奥多摩地区山岳遭難事故発生件数
総発生件数54件
死傷者数63人
●死亡4人
●重傷12人
●軽傷12人
●怪我なし35人
●行方不明0人

以上のデータに目を通していただければお分かりだろうが、熊を恐れる以前に、先ずは山を恐れるべきだと思う。
山へ入る誰しも、自分が遭難するなどとは思ってもみない。
私も時折己を戒めるが、周到な準備を行ない、過信を押さえこむ冷静な判断力を備えれば、殆どのトラブルを未然に防ぐことができるのだ。


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