2022年春 桜・大沢温泉~那賀川

 三月三十一日(木)。先回の河津桜に引き続き、今度は千両役者のソメイヨシノ撮ろうと、西伊豆は松崎へとPOLOを走らせた。装備はD600+SIGMA12-24mmとα6000+Vario-Tessarである。

 昨年もこの時期に、伊豆高原、青野川、那賀川、そして沼津の子持川と、一泊二日の日程で徹底的に撮りまくった。これまでになかった最高のコンディションのもと、十分な成果を得られたのは記憶に新しい。ところが今回、例年より早く訪れた“春一番”のせいだろうか、開花が急速に進んでしまい、確保した二連休を待っては葉桜になってしまうので、仕方なく、一周間前倒しの上、八年ぶりとなる西伊豆“日帰り撮影”で決行したのである。
 幸いなことにまあまあの天候と開花状態に恵まれ、歳と時間を忘れて歩き回り、どん欲にシャッターを切り続けた。むろん撮影は最高に楽しかった。ところが、やはり疲れた。完全な疲労困憊に陥り、帰りの高速道路は襲いかかる眠気との戦いに終始。世の中のため、そして自身のためにも、次回からは一泊を順守しようと心に誓う。

 撮影の手始めは大沢温泉。ここにある「野天風呂・山の家」は三度ほど利用したことがあるが、桜の撮影は初になる。R15沿線にある大規模な桜並木も嫌いではないが、どちらかと言えば、那賀川河口付近のなまこ壁とコラボするようなしっとりしたSituationにある桜が好みであり、よって那賀川の支流である池代川沿いにある古い温泉街の桜は、是非腰を据えて撮ってみたい対象だったのだ。
 大規模お花畑を配する那賀川の桜並木とは対照的に、池代川の川沿いを歩く人はまばら。訪れた瞬間から写欲が沸き立ち、あれやこれやの構図決めに没頭。
 今回は松崎の町を超広角レンズで切り取ってみようというのも目的の一つ。24mmまでだったら問題なく使いやすい画角だが、12mmとなると非常に特殊。画像周辺の歪みや流れは半端でなく、単に広い範囲を撮れるといった生易しいものではない。文中挿入の画やGALLERYをご覧になっていただきたい。

 那賀川の桜は完全な満開まであと一歩というところ。しかし強い海風に煽られて既に多くの花びらが散ってしまい、木々のボリューム感は昨年と較べて力強さに欠ける。特に河口付近は顕著だ。松崎のように、自宅から遥か遠方にあるソメイヨシノの撮影は、タイミングをとるのが非常に難しく、昨年のようにすべての要素が揃って100%というような状態には、そう簡単に巡り合えるものではない。地元の桜だって満開時に合わせて休みが取れるかどうかは微妙なところ。よって数年前まではあまり積極的にはなれなかった桜撮影が、前述した昨年2021年の伊豆桜三昧が脳裏に焼き付くほどの素晴らしい撮影行となり、来年の桜はどこでどの様に撮ろうかなどと、桜へ対しての興味が一気に膨らんでいた。
  
 POLOをいつもの松崎港に置き、すぐ脇にあるトイレに行こうとすると、「ない?」。いつの間にか取り壊されて、コンクリが敷き詰められていた。田舎はこうした変化が少ないだけに、なんの変哲もないことにも目を見張ってしまう。民芸茶房の裏を抜けて那賀川の河口へ歩いていく。
 週末でもないのに、“あそび島”にテントが張られていて、利用客らしき人が何やら作業を行っている。松崎港の奥まったところに位置し、晴れれば富士山も見渡せるロケーションは、春と秋ならば、快適なテント泊が楽しめそうだ。

 それにしてもこの一画は静かだ。人の動きが見られるのは、民芸茶房周辺と久遠周辺だけ。瀬崎神社へカメラを向けているとき、突如自転車に乗った地元民らしき若い女性が疾走してきたが、これはかなり珍しい。この辺りで地元民と思しき人は、ほとんど爺さんと婆さんしか見たことがない。そう考えると、この先十年もしないうちに、松崎も過疎化が進むことだろう。自治体はサイトを立ち上げ、積極的に都市部からの移住を紹介しているが、観光集客とは全く異なる難しさがあり、恐らく目論見通りにはいかないと思う。そもそも若い人たちは仕事がないがために都会へ移るのであって、移住者にしても仕事がなければ生活が成り立たないのだ。

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