2018年・年末撮影会

朝日に染まる富士山ってのは、いいものだ。
その神々しさ溢れる山容は、眺める者を圧倒し、畏敬の念を抱かずにはいられない。
例年より20分ほど早く出発した為か、沼津に到着したと同時に朝日が昇り始め、ラッキーなことに駿河湾を俯瞰する富士山の姿を拝むことができたのである。
御殿場の手前から雨を降らしそうな黒い雲が垂れ込み始め、まさか富士山を拝めるとは思ってもみなかったが、沼津インターを降りてふと北側へ振り向くと、そこにはまさかの富士山が。
2018年12月30日。恒例の年末撮影会は幸先の良いスタートを切れたようだ。

いい被写体に出くわした感覚は、釣りに例えれば“いい当たり”と似ていて、どちらも絶対にものにしてやる!というファイティングスピリットをかき立てる。
特に今回は撮影テーマを<富士山>と決めていたので、尚更高揚感を覚えたのかもしれない。
伊豆の西海岸は殆ど何処からでも富士山を狙えるが、初日に松崎の千貫門と烏帽子山、そして二日目には西浦の淡島を取り入れた富士山を狙ってみようと、具体的なターゲットをあらかじめ同行のTくんへ伝えてあった。

千本浜の駐車場に車を停め、慌ただしく機材を抱えると、防波堤を降りて波打ち際のすぐ傍に陣取ってセットアップを行った。風景撮影に使いやすい3WAY雲台へは<D2H+タムロン70-300mm>を装着、まずはISO200、絞りf11でスタート。赤く染まる富士山をファインダーに捉え、続けざまに十数枚を撮ってみた。

「いや~、冷える。そろそろ行う」

時計を見れば既に30分が経過していた。撤退しようにも手が悴んで思うように三脚をたためない。日の出の時間帯からカメラを握っていれば仕方のないことか。

二人とも滑り出しの良さから気持ちは前向きになっていた。
幾度となく通い続ける伊豆でも、まだ見ぬ撮影ポイントはいくらでもあるだろうから、訪れる際にはその辺を意識して絶えずアンテナを張っている。魅力的なところが見つかれば当然嬉しいし、次回の楽しみへと繋がっていく。

狩野川の分流を渡ると、間もなく明日登る予定の発端丈山の登山口がある筈だ。山へ入る前には駐車場を見つけておく必要があるので、この点は事前にネットで下調べを行った。得た情報によると、三の浦総合案内所という建物の隣に公園があり、そこが無料駐車場として使われているようだ。
三津シーパラダイスを過ぎるとすぐにトンネルがあり、そこを抜けて左の一方通行を数十メートル進むと、右側に公園らしきものが見えてきた。なるほど、既に車が3台駐車中だ。
確認できてひとまず安心したので、ここから目と鼻の先に前々から撮影ポイントとしてチェックしたい場所があったので、行ってみることにした。公園から50mほど国道を戻り、信号を左折する。

「いい感じかな」
「分かんないけど、ぐるりと回ってみよう」

後から調べるとここは“長井崎”という小さな岬で、丘に上ると突き当りに長井崎中学校がある。国道から一歩入らねばならない区域の為に、静けさは満点だ。周りの海では地元民と思しき多くの人達が釣りに興じていて、これぞローカル天国といった印象である。

「おっ、あそこ、来た道が見えるよ」
「だいぶ上がってきたな」

中学校の脇に車を停めて、さっそくカメラを持ち出した。
眼下には凪いだ西浦湾が広がり、右手にヨットハーバー、そして左手には淡島が見渡せた。
西浦はミカンの産地として古くから知られていて、ここで収穫される品種【寿太郎温州】は沼津で生まれ育った純正沼津ブランド。糖度が高く、濃い味わいで高い評価を得ているとのこと。中学校の周囲を眺めれば、なるほど、その殆どがみかん畑である。

車へ戻るとTくんが開口一番、

「撮影会に来ると、無性に腹が減るんだよね」
「だったら昼飯、去年の“いか様丼”食うか」
「それもいいけど、久しぶりに民芸茶房へ行きません」
「OK♪」

民芸茶房とは、松崎にある豊崎ホテルが経営する食事処。伊豆までくれば海鮮を食べさせる食堂はいくらでもあるが、刺身のような生ものではなく、風味が良くホクホクで熱々な干物を提供している店はそう多くない。
その点、ここの干物は貴重である。
エボダイ、鯵、鰯の味醂干しの三品に、特製塩辛、キビナゴ素揚げ、漬物等々が付く干物定食は絶対のおすすめ。これで税込み1,080円はリーズナブル。

長井崎での撮影にやや時間を費やしたことがちょうどいい時間調整となり、食後のお茶を啜っていると、千貫門を見下ろす撮影ポイントへの出発時刻が迫りつつあることに気が付いた。
千貫門と烏帽子山越しに富士山を狙うには、同じく松崎町内にある“雲見夕陽と潮騒の岬オートキャンプ場”の敷地内に入らなければならない。恐らく民芸茶房からは30分も掛からずに到着できそうだ。

雲見温泉を通過するとR136は再び山へ向かって上り坂になる。上り始めてすぐのところに右へ折れる交差点があり、そこを入って道なりに進んで行くと、ものの数分で忽然と右側にキャンプ場の入り口が現れた。
入場して左手の建物へ入ると、管理人らしき年配男性がいたので、駐車料金を払おうとしたら、

「駐車代は取ってないけど、入場料が一人一時間200円かかります」

とのことなので、二人分の400円を手渡して早速陣取りへ向かった。

海側と道路側で二段になっている敷地は広く、その開放感は満点である。見回すと殆どが家族連れのキャンパー達で、小さな子供たちがあちこちで飛び回ている。温泉宿や海外旅行もいいけれど、年末を家族でキャンプして楽しむなんて、ある意味贅沢であり一考だと思う。
海側のフェンスまで来ると、これぞ断崖絶壁というダイナミックな景観が待っていた。
左手は岬があるので眺望はきかないが、右側は遠く富士山がはっきりと望め、それに対し千貫門と烏帽子山がうまい具合に配列され、まるで一枚の画を見ているようである。
更に左手の岬には、写真愛好家の為にとしか考えられないビューポイントが造作されており、Tくん共々早々に機材をセットした。後は夕陽を待つばかりだ。

岬には我々二人とNikonD850を持つ男性の三名のみ。全員がNikonユーザーというのも面白いが、D850さんはハーフNDをセットさせ綿密な調整を行っている。恐らくかなりのベテランだろう。
ここは<D600+Nikkor24-120mm+PLフィルター>で臨むが、サブのV2を持ち出し、敷地内のスナップも楽しんだ。

「しっかし寒いっすね~~」

風がないので助かったが、陽が傾くと同時に気温が落ちてきた。
ここは辛抱一発と、気合を入れなおし、刻一刻と表情を変える景観を一枚二枚と撮り込んでいった。
それにしてもなんて美しい眺めなのだろう。
富士山と海と夕陽が織りなす絶景は、私の<伊豆のことなら何でも聞いてくれよ!>などと言う戯言を根底からぶち壊し、伊豆の計り知れない被写体としての魅力をとことん思い知らされたのである。

民宿の夕食が始まる17時半に間に合うには、16時40分頃までには片づけを済ませて出発しなければならない。
そしてその時刻はあっという間にやってきた。

完全に陽が落ち、漆黒の闇と化した南伊豆の峠道をひたすら走り、民宿・南伊豆へ到着したのは17時半を少し過ぎたころ。ところが女将に聞くと、夕食の準備が遅れているとのことで、それではと、何はさておき温泉へ直行した。

「いやぁ~~~、あったまるぅ~~」
「最高っすね」

やや塩気のあるお湯は冷えた体の芯まで温めてくれ、同時に今日一日の疲れも優しく流してくれた。
一泊撮影会の楽しさはこんなところにもあるのだ。

翌朝、目覚めて窓を開けると、残念ながら厚い雲に覆われ、青空はぽつりぽつり程度。これでは西伊豆からの富士山眺望は難しいかもしれない。
天気に文句は言えないので、急遽、2年前の年末撮影会で端折った“河津七滝”へ行ってみることにした。ここはお初の場所なので楽しみである。
七滝までは下田から国道414へ入ればものの一時間ほどだ。車の流れは頗るよく、予定通り10時前には到着できた。狭い温泉街から空を見上げれば、ループ橋が強大なとぐろを見せる。
河津七滝はその名の如く七つの滝によって構成されており、下流から順に、大滝(おおだる/※伊豆半島最大)、出合滝(であいだる)、かに滝(かにだる)、初景滝(しょけいだる)、蛇滝(へびだる)、えび滝(えびだる)、釜滝(かまだる)と並ぶ。
時間はたっぷりあるので、駐車場から最も近い大滝からしっかりと全部回ることにした。

目の前に現れた大滝は豪快そのもので、豪快さは浄蓮の滝と同等か上回る。但、滝も凄いが、展望台直下には天城荘所有の露天風呂があって、いくら水着着用といえども、肌もあらわな女性が衆人環視の下に晒されるのはちょっと微妙な気分。
その後のんびりと巡っていき、最後の釜滝で圧倒される。
滝、そして滝壺から流れ出す川も含め、全て自然が作り出した景観はまさにアートであり、特に周囲の岩壁が見事な柱状節理を成していて、それはもう圧巻と言っていい。

「これで最後だけど、この先の登りがきつぅ~~」

渓谷の底から再び国道へ戻るには、相当な高低差を越えなければならない。
パーカージャケットとダウンベストの前を全開にして、汗をかかないよう注意した。

「これ、どっちかな」
「右だよ。下るんだ」

上がり切ったところは国道414。ループ橋を出発点に渓谷を上がってきたのだら、戻るには下らなければならない。
ところが歩いても歩いてもループ橋が見えてこず、遂にはTくんが不安を漏らし始めた。
車を停めた駐車場はループ橋から少し上がったところだが、国道を下っていってもループ橋手前に駐車場までのショートカットルートなどない筈。

「このまま行くとさ、まさかループ橋、歩くの?」
「かもな。歩行者専用道なんて見たことないぜ」

あんな路肩が狭いところを歩いていて、大きな車が来たらド恐怖である。

「しかもループ橋を何とか通過しても、そこから更に上りを歩かなきゃならないよ」

これまで上りの渓谷を1.5kmも歩いてきたのだ。疲れはそこそこある。
と、その時、

「あれ? これって停留所じゃないの?」
「そうだよ、バスのだよ、これ。しかも後数分でくるぜ!」

Tくんが見つけたのは紛れもなく停留所だ。
都内にあるそれとは形状が異なり、細いポールに幅の狭い時刻表板を張り付けているだけで、一見路肩にある何かの表示用ポールにしか見えない。

「よく見つけたな」
「ラッキーかも」

それから待つこと5分。バスが来た。
整理券を引き抜き乗車。動き始めて間もなくするとループ橋が迫ってきた。

「ここ、やっぱり歩きじゃ怖すぎだよ」
「確かに。こりゃ危ないな」

バスとガードレールの隙間は狭く、路肩は殆どないといった感じだ。
そもそもここは法規的に歩行可なのだろうか?!
これまで数えきれないほど車やバイクで通過したことはあるが、歩行者は一度も見たことがない。
車に戻り、近くの食堂で昼食を取った後は、今回最後の撮影地である西浦の発端丈山へと出発した。
ここからだと大凡一時間弱の道のりになる。

昨日のうちに駐車場と登山口の下見をしていたので、準備はスムーズに進んだ。
残念ながら富士山は厚い雲に覆われ、その姿を見ることは厳しい状況だったが、ここは夜景も撮れそうなので、気を取り直して登山口へ向かった。
一応山歩きなので、カメラを持参した小型のバックパックへ詰め込み、下山時の時刻も考慮して、ペツルのヘッドライトも用意した。
住本寺脇の舗装路を上がっていくと、右側がみかん畑となって道はいきなり細くなるが、よくある山道ではなく、ちゃんと舗装してあるので至って歩きやすい。但し勾配はきつく思わず息が乱れてペースが落ちた。
これはまずいと一旦ふんどしを締めなおすと、

「あれ、ここみたいですよ」

前を行くTくんが徐に左脇へ入っていく。
彼に続くと、何と眼前に西浦湾が広がっているではないか。気合を入れたのは良かったが、歩き出して十分経つか経たないかで到着してしまったのだ。更に先へ進めば高所の見晴台へ行けるのだろうが、景観のまとまりはここで十二分。
早速セッティングに取り掛かり、昨日と同様、日暮れを待った。
但、富士山さえ見えれば日暮れなど待つこともなく絶景だろうと思うと、残念一入である。

徐々に薄暗さが増してくると、やはり底冷えがきつい。今日も風がないから助かったが、しんしんとくる冷えは体を動かしていないと耐えられないレベル。今回の撮影行では寒さに対するノウハウをかなり身に付けたように思う。
特にオーバーパンツは必須と感じた。上着も厚手のダウンジャケットは欲しいところだ。

「いい感じになってきた~」

ホテル、ガソリンスタンド、コンビニ、そして街路灯に灯りが灯り始める。
目を凝らせば遠く沼津港の照明もきれいに届いている。
これを待っていた我々は撮影に集中。暫し寒さも忘れて没頭した。

「今回は初尽くめで面白かったですね」
「ほんとほんと。初っ端の朝富士から良かったよ」

車は東名高速を快調に走り続けていた。
土産も買ったし、青島だけど西浦みかんも買った。最後の最後は海老名SAへ寄って、大好物のイカの塩辛を手に入れればすべて完了である。

初の撮影ポイント尽くしで盛り上がった二日間。
<まだまだあるよ伊豆のいいところ!>を痛感し、ますます写欲が出てきたことは言うまでもなく、これからも続く年末撮影会への意欲は高まる一方である。
昨今、やや忘年会的ムードに染まってきたと危惧していたが、やはりその字の如く、年末締め括りの大撮影会なのだ。
次回を楽しみに、更なる撮影スキルを身に付けようではないか。

GALLERY 18 / 2018年・伊豆


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