2017年夏 山形・秋田

今年の夏は山形で遊んだ。昨年が仙台だったから、2年連続して東北を選んだわけだ。
35℃なんていうクソ暑い日が続けば、やはり涼しいところへ行きたいと思うもの。そう決まると、心は清々しいイメージの東北へ迷うことなく飛んでいったのだ。

決め手は女性ハイカーのブログで見た御釜の写真だった。
ロープウェイで一気に山頂まで上りつめたら、そこからアップダウンの少ない尾根道を、夏の植物を愛でながら歩き進む。すると青緑色の水をたたえる火口湖“御釜”が現れる。と、こんな筋だが、そこには山ならではの爽やかさに満ち溢れ、胸のすく景色と合わせて、体力を使わず且つ時間短縮が可能という、今回のスケジュールにはもってこいの要素を感じ取ったのだ。

思い立ったら吉日と、すぐに山形駅前のビジネスホテルを押さえて、当日を楽しみに待った。
余談だが、このホテル予約の際には少々意味不明なことがあり、首を傾げた。
予約にはいつも利用するYaHooビジネスを使った。
すぐに見つかったホテルは、駅東口の「リッチモンドホテル山形駅前」で、“8月10日(木)大人一人一泊7,000円空き室あり”と表記されていたが、もちろんせっかくの山形まで出かけるのだから一泊ではもったいないと二泊で予約を取ろうとしたら、合計金額25,800円と表記された。
ん?
7,000円×2日=14,000円ではないのか。しかし落ち着いて考えると、二泊目の8月11日は、最も新しい国民の祝日「山の日」だったのだ。よって割増料金かとも思ってみたが、それにしても高過ぎる。それでは連泊という形ではなく、10日に一泊、そして11日にまた一泊と、予約方法を変えようとしたら、11日は全室満室とでた。連泊なら取れるのに一泊ずつではNGとなるこのシステムに少々むっときたが、仕方がないので、一泊目はそのままリッチモンドホテルを押さえて、二泊目には他のホテルを利用することにした。ところがさすが“山の日”である、なかなか空き部屋が見つからず、やっと予算内でゲットできたのは、楽天トラベルのサイトにあった「ホテルキャピタルイン山形」。リッチモンドホテルよりグレードは落ちるが、一泊8,680円と祭日にしては安くて助かった。
これで準備完了だ。

出発は10日(木)午前5時。残念ながら小雨がぱらついている。念のためにYaHoo天気の雨雲レーダーで良く調べると、関東から北東方面、つまり太平洋岸に沿って雨雲が掛かっていたが、福島辺りまで行けば恐らく回復するのではと予測できた。
スマホひとつでこのような情報を得られるのだから、まったく便利な世の中である。

車は順調に東北道を進んだ。すっきりと治らない腰痛がちょっと心配だったが、時速100Kmから120Kmの間を常にキープできる快適なドライブが、多少重苦しい腰回りのことを忘れさせた。
普段はそれほど飛ばさない高速道路だが、何故かこの時は妙にテンションが上がり、古くなったとはいえ、シルキーシックスを搭載したE46の底力を楽しむようにアクセルを踏み続けたのである。レーダーや覆面を気にしながらも、ある時は150Kmをオーバーさせ、我が物顔で疾走するベンツやBMWを見つけては、後ろからツンツンと遊んでみた。

こんなことで、あっという間に最初の休憩地「阿武隈PA」へ到着。朝食は出発前にシリアルを食しただけだったので、ちょっと前から胃がキュ~ッと鳴り始めていたのだ。施設に入ると右手が食堂だったので、迷わず入った。
<何にするかな>
店内を見回すと、壁に張った紙に“名物・白河ラーメン”とある。
<名物に旨い物なしだけど、まっ、これにするか>
食券を受付のおばさんに差し出し、待つこと5分。

「Eの14番の方、お待たせしました」

カウンターの一番端に陣取り、ゆっくりと食した。
案の定である。ちぢれ麺は食感も良かったが、スープの余りのあっさり味に、全くうま味が感じられない。瞬時に常磐道・関本PAの“野菜炒めラーメン”のインパクトを思い出した。ラーメンという食べ物には、やはりある程度のインパクトは必要。スープを啜ったら、ん~、とか、ふぅ~、とかのリアクションが出て然りなのだ。

その後も東北道は順調に流れ、白石ICを降りるとエコーラインに乗って刈田岳を目指した。

刈田岳駐車場から目と鼻の先にある“御釜”。ウェブサイトで見つけたこの写真を見て山形行を決めたわけだが、こうして目の当たりにすると、スケールのでかさがひしひしと伝わってくる。馬の背まで歩を進めると、御釜の右手に刈田岳、そして左手に熊野岳と、素晴らしい広がりを見せる山岳ビッグビューを堪能できたのだ。
車で手軽に来られる点については、やや興ざめを覚えるところだが、老人や小さな子供たちまでが、この山岳美を自分のものにできることは、難しいことなしに素晴らしいことだと思う。
その後、馬の背で暫し撮影を行っていると、ふと山登りが恋しくなった。御釜の迫力もいいが、自分の足を使って登る奥多摩・岩尾根から見る富士山も、負けず劣らずの感動を与えてくれるのだ。

山を下りた後は、蔵王温泉にある“鴫の谷地沼”(シギノヤチヌマ)という池に立ち寄ってみた。“蔵王町の見どころ”で検索しても出てくるところではないが、山形駅前に至る途中に位置することや、何となくその名前に惹かれたこともあって、とりあえず散策を計画に入れていたのだ。
ロープウェイ山麓駅からちょっと南へ歩いた道端に、“鴫の谷地沼遊歩道入り口”の道標がある。
急な階段を下りていくと、ここを訪れる人は少ないのだろうと思われる荒れた道が延びていた。踏み固められた草むらを行く感じだ。
ブンブンと顔に絡みつく多数の虫が不快であったが、湖畔まで出ると、
<なるほど☆>
面白そうな撮影スポットが待っていたのである。対岸に釣り竿を振っている人が見えたが、調べるとここはブラックバスの釣り場でもあるそうだ。
静寂に包まれた鴫の谷地沼は、伊東の一碧湖に共通する雰囲気を持っていて、今の季節もいいのだが、秋の紅葉シーズンに訪れたら、全く別の顔を拝めるのではと興味は尽きない。
東側まで回ると舗装路に変わった。池越しには眩しい青空と、蔵王の山々がそびえ立ち、まんま山岳リゾート地の王道を行くような景観である。
<しかしよく歩いた。汗でびっしょりだ>
私は大層な汗っかきである。よって夏に綿の下着はNGだ。汗を大量に吸い込み不快でしょうがないし、そのまま冷房の効いた部屋に入れば寒くて震えがくるからだ。
よって山歩きだけではなく、普段の生活からクールドライタイプの下着を愛用している。汗を吸い込んでも乾きが早いから、サラッとして快適なのだ。
そのクールドライのVネックシャツが汗でぐっしょりになっている。
こうなるとチェックイン前に行かなければならないところがある。そう、温泉だ。
蔵王温泉人気の立ち寄り湯でトップに輝く“蔵王温泉大露天風呂”。ここは押さえておかなければならない。これだけ汗をかいた後だから、さぞかし気持ちがいいだろう。

露天風呂の駐車場には、鴫の谷地沼から数分で到着。さっそくタオル片手に車を降りた。
入り口と示すところから階段を下っていくと、下から渓流のせせらぎが聞こえてきた。なるほど、露天風呂は清流のすぐ脇にあるだ。これは実にナイスなSituationだ。
それにしても硫黄の匂いが物凄い。これが苦手な人には辛いかもしれない。

「はい、550円です」

いかにも人の良さそうなおばさんに入浴料を払う。
脱衣場へ入ると、下方へ段々畑のように延びる露天風呂の様子が見えるが、誰一人として体を洗っていない。そもそも体を洗うスペースがないのだ。ふと注意書きを読むと、“石鹸・シャンプー等はご利用いただけません”とある。自然を汚さない配慮はいいことだ。
それにしても豪快無比、野趣満点とはここのこと。通路と男湯の間には葦簀で目隠しがされているが、目が粗いので、殆ど丸見えといったところだ。
なんだかんだ30分。さっぱりしたところでホテルへ向かった。

山を下り終え、市街地から駅前エリアに入ると、不思議と心が落ち着きてきた。
リッチモンドホテルは開業が2008年とまだ新しく、部屋も設備も非常に清潔感があり、第一印象は上々。シングルルームなのに広く快適で、以前、能登を旅した時に泊まった輪島の“ホテル・メルカート輪島”のだだっ広い部屋を思い出してしまう。
適度な位置に適度な数のコンセント、室温の微調整が利くエアコン、シャワー湯量の豊富さ等々、ビジネスホテルに望まれる要素はもれなく押さえられている。
夕飯はいつものように居酒屋で済ましたが、疲れのせいか酔いの周りが早く、中生2杯で朦朧としてしまい、部屋へ帰れるとそのままバタンキュー。
無事初日終了。

目覚ましのスイッチを切り、窓辺に立つと、
<おいおい、雨かよ、、、>
よく眠れたせいか、気分は絶好調だったが、朝からの雨模様でテンションは急降下。
今日の予定は、ロープウェイ山麓駅から地蔵山頂駅へ上がり、そこから地蔵山山頂~熊野岳山頂の尾根道歩きを楽しみ、帰りは祓川コースを使っていろは沼へ下り、その後は再びロープウェイに乗って山麓駅まで戻るというものだった。
爽快な山岳景色をカメラに収めようと期待していたが、雨ではどうにもならないし、況して尾根道は濃いガスに包まれて眺望は望めないだろう。さっそくスマホで雲の動きを調べてみると、
<やはり太平洋側はダメっぽいか、、、>
中日は丸々一日を使える貴重な日である。蔵王が駄目なら一体どこへ行けばいいのか、いろいろと考えをめぐらすが妙案が浮かばない。
<とりあえず朝飯を食おう>
昨夜コンビニで仕入れた、サンドイッチ、ドーナッツ、牛乳、オレンジジュースをテーブルに並べ、ドリップコーヒーを入れた。先ずは食事をとって落ち着くことが肝心だったが、焦る心は食しながらスマホで山形を中心とする広範囲の天気推移を調べていた。
<なるほど、太平洋側は晴れなんだ>
その時ひらめいたのが、“にかほの元滝伏流水”。一度は被写体としてカメラに収めたかったところなのだ。早速Googleマップで位置関係を調べると、距離150Km、所要時間3時間と出た。元々目と鼻の先の山歩きを予定していたので、起床時刻は8時半と遅めだった。既に9時半を回ろうとしている。
<早く出かけないと、撮影時間がなくなる!>
こうして急きょ予定を変更し、鳥海山の麓、秋田のにかほ市へと向かったのである。

北海道とまではいかなかったが、郊外へ出るとどこを走っても道は空いていて、快適なドライブを楽しむことができた。一般道でありながら平均60~70kmほどのスピードで流していける。しかも信号は少なく、赤で引っかかってもすぐに青へと変わった。
さすがに下道で150Kmは遠かったが、流れに淀みがなく、且つ広大な稲作地帯を眺めながらの運転は全くストレスを感じないものだった。特に日本海が近づき、最上川の右岸を走る頃には完璧な快晴となり、はやる気持ちを抑えるのが大変。
昨日から乗りっぱなしの感があるE46だが、実に頼りになる。

元滝伏流水の駐車場に到着したのは午後1時手前。カメラと三脚を抱えると、足早に現場へと向かった。
流れ出た伏流水は渓流を作り、その美しさは“ミニ奥入瀬”と言って憚らない。倒木や岩に生える緑のコケ等々、水上にある関東の奥入瀬“照葉峡”よりも断然それっぽいのだ。
<おっ、ガスが立ち込めてきたぞ>
ただでさえ美しい流れなのに、そこに霧が立ち込めて幻想的な景観を生み出している。
但し、この霧は写真撮影となると厄介な現象だ。それこそ水の流れが霧でかすんで見えなくなるし、露出やピントを合わせるのも難しくなるのだ。
歩くこと10分。元滝伏流水の核心部へと到着した。
まず驚くことはその水量の豊富さだ。一般河川の滝ほどのボリュームがあり、水しぶきと濃い霧で髪の毛が瞬く間にじっとりとしてきた。
私以外に15~16名の観光客が居合わせたが、凛とした空気感と伏流水の織り成す美しさに、皆心を奪われていたに違いない。
これも鳥海山が育んだ水資源だと思うと、山ありきの日本の自然に、改めて感動を覚えるのだった。

急きょの作戦変更も満足度の高かった中日。
そして12日の最終日を迎え、予定通り向かったのは、通称“山寺”と呼ばれる、宝珠山立石寺である。
山の急斜面にいくつもの祠を配した、他ではなかなか見られない特異性と、数百段もある急な石段を上り詰めた者だけに見ることの許される絶景で、山形県下でも人気の観光スポットとなっている。
何でも、この石段を一歩一歩登っていくと、それに乗じて己の煩悩も消えていくとか。
さて、専用駐車場へはホテルから20分ほどで到着したが、寺までは更にそこから徒歩で10分ほど掛かった。この日は結構蒸し暑かったので、石段へ掛かる前からうっすらと汗ばんできた。
なるほど、下から見上げると物凄い急斜面だ。正直なところ老人にはしんどいだろう。それにしても時刻はまだ9時半だというのに、この観光客の多さにびっくりだ。
早速入場料300円を払って、石段上りをスタートさせた。参道は鬱蒼とした樹林の中だけに、そこを通る空気はひんやりとして、初っ端から汗の吹き出すことはない。ところが中盤に差し掛かると、多少だが息が切れてくる。下方を振り返れば、ずいぶんと上がってきたことが分かる。
但、石段を上がっていく過程には、祠をはじめ石仏やその他、様々な被写体が巡ってくるので飽くことはない。

「はい、こんにちは」

突如の声かけに振り向くと、どこから見てもお爺さんと言っていい年恰好の男性が、すぐ傍を駆け抜けていくではないか。何と、こともあろうに多数の観光客が行きかうこの石段で“トレラン”をやっているのだ。見れば、シャツ、パンツ、シューズも本格的なものを身に着けている。しかしどんな理由があるにせよ、わざわざ入場料まで払て、人をかき分けなければ走れない、この石段でやることはないと思うのだが、もしかすると多くの願い事があるのか、はたまた強力な煩悩に悩まされているのか、、、
世の中にはいろいろな人がいるとつくづく思う。

広がる下界の景観を最もよく見渡すことのできる五大堂までくると、さすがに汗まみれだ。
しかし気分は爽快だし、己の煩悩もだいぶ消え去ったと実感?するのだった。一苦労だったろうが、頑張って登ってきた老夫婦やチビッ子達も、皆いい顔をしている。
<閑さや岩にしみ入る蝉の声>
これは、元禄2年、おくのほそ道をたどり、今の7月13日に山寺を訪れた松尾芭蕉の句である。

下山後、境内の販売店でお守りを買った。
元来お守りを買うような柄ではないのだが、この山寺にはそうさせるような何某かがあったのかもしれない。
夏の東北最終日。あとは東京へ戻るだけだ。
車の中でひとりにんまりしながら、旅の楽しい思い出や経験を反芻するのだった。

追伸
この三日間、一度たりとも交通渋滞に出会わなかったのは、実にラッキー!

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