体に鞭を入れよう。一時でも気持ちは晴れる。

緊急事態宣言発令で好きな居酒屋にも行けず、はたまた越境しての撮影行もままならぬ状態が続き、誠にクソ面白くない毎日である。おまけにこの頃では親の介護が生活を圧迫するようにり、精神、体共々、好調とはいえない。

< 体に鞭を入れよう。一時でも気持ちは晴れる >

てなことで、馴染みの刈寄山を歩いてきた。

森に分け入ると、どこを見回しても完全な冬枯れだ。
鳥のさえずりは一度たりとも耳にしなかったし、昆虫の気配も全くといって感じない。おまけに風がほとんどなかったので、気味が悪くなるほど静かである。
ただ、私が勝手に名付けている“展望台”からの景色は、相変わらず心を和ませてくれた。今回も富士山は見えなかったが、山々が織りなす壮大な景観だけで十分に満足できるのだ。

どこを見回しても落葉色

良くなったり悪くなったりの膝。突如痛みだす腰。更には湿度の低下でズルズルが増した鼻と、シャキッとしない毎日が続き嫌気がさす。しかもこのようなイライラを加齢のせいにし始めた自分が情けない。

― 山の空気でも吸いに行くか。

冬直前の刈寄山は、どこを見回しても落葉色だった。
紅葉のピークはとうに過ぎていて、荒れ果てた景色がどこまでも続き、その荒涼感は重い。目を凝らせば花も見つけられるが、生命感は希薄だし、昆虫の姿がない森に咲く花からは、寂しさしか感じられない。
落葉を踏みつつ、静かな山歩きも悪くはないが、やはり新緑の頃の生命感あふれる山の方が私は好きだ。

西側が大きく開ける斜面に出た。
鬱蒼とした樹林帯歩きから一転して、ワイドな景観が広がり、何度訪れてもここに立つと爽快な気分に包まれる。群生するススキは今が見ごろ。穂に反射する太陽光がやけに眩しく、斜面を黄金色に染めていた。

今日の収穫は、膝も腰もまだまだ大丈夫!が分かったこと。
普段、階段を上る時に出る僅かな痛みや違和感は全くといって出ないし、頂上直下の急坂に取り掛かっても、余力さえ感じたのだ。

「カップ麺も、山で食うと上等な味だね」

先客である70歳前半と思しきご主人が楽しそうに話しかけてくる。
刈寄山には既に20回以上登っていて、若い頃には幾度も北アルプスへ挑戦した山好きだそうだが、現在は健康維持のために低山歩きを続けているらしい。

「しかし寒いな。次に来るときはダウン持ってこなきゃ」

低山といってもスカイツリーより高いのだから寒いわけである。しかも風が出てきた。
ウィンドブレーカーを羽織ったが、汗を吸ったアンダーが体温を奪っていく。
だけどこのキューっとくる寒さは、山にいることをリアルに感じて意外に好きかもしれない。

霧の刈寄山 & GR

コロナ禍で遠ざかっていた山歩き。しかしこの絶好のシーズンに2カ月半も山の空気を吸わないでいると、どうにも気分が落ち着かない。そこで自分自身の山開きは“越境可”となる6月19日以降と決めて待つことにした。

そして最初の休日になったのが24日(水)。楽しみにはしていたのに天候が芳しくない。前日のウェザーニューズでも、刈寄山があるあきる野市は“10時から15時が雨”と出ていた。悔しいことに予報は当たり、現在は霧雨である。
しかし刈寄山はスタートから山頂までずっと樹林帯の中を行くので、この程度の降りだったらカッパも要らない。
駐車場に到着して準備を始めると、遥拝殿に人影が目に入った。よく見ると登山の格好をしている年配男性である。駐車場に一台軽自動車が停まっているので先客だろう。登ろうか、止めにしようか、私と同じように迷っている。
それもその筈、先ほどから雨脚が急に強くなってきたのだ。
尾根を仰げば濃いガスに覆われているし、辺りの暗さは徐々に増している。しかしここまで来て引き下がるのは悔しい。よって30分だけ待つことにした。
ご年配男性は早々に諦めたようだ。間もなくして軽自動車に乗り込み駐車場を後にした。

私は待った。
時刻は10時40分。嬉しいことに、止みはしないものの降りは徐々に小さくなってきている。
これならOK。出発準備を済まし、GRを片手に山道へと入った。

ガスが山全体を覆い、辺りは幻想的な雰囲気に包まれている。いつもとは一味違った写真が撮れそうで、気分は浮き立った。
コース半ばまで来たとき、前方の霧の中からチェックの長袖シャツを着た、私と同年代と思しき男性ハイカーが忽然と現れた。こんな気候条件でも山へ入る者は私だけではない。

「こんにちは」
「涼しくていいですね」

全くそのとおり。この冷ややかな感じは大分疲労を軽減してくれそうだ。

その後も面白い被写体はないかと、目を凝らしながら歩いていると、視界の左端に動くものを捕らえた。
見ると大きな蛙だ。しっとりとした空気はさぞかし気持ちがいいのだろう、カメラを近づけても逃げようとしない。周囲の雑草も水滴で光り輝き生き生きとしている。こんな森の表情を見られたのも、雨を押しての山行ならではだ。

刈寄山へ到着すると30代半ばほどの背の高い女性ハイカーがいて、今まさに出発するところ。
先ほどすれ違った男性と同じく、こんな天候の中、早くから山へ足を踏み入れているのだ。

「こんにちは」
「気をつけて」

家に引きこもっているのは本当に堪える。この女性も、すれ違った男性も、そして私もだ。
出掛ければ何かを発見できるし、また感じることができる。五感を稼働させるってことは、実に楽しいことであり、また幸せなことだと思う。
いつもとは違う刈寄山でGRのシャッターを無心に切れたことは、こうして外へ飛び出したから得られたもの。
マンネリ化が否めない我が写道楽。これの解決策はずばり【行動】だ。