彩香亭・女房とランチ

ぶたしょうが丼 500円(税込)

 三月十四日(金)。洗濯物を干し終えた女房が二階から降りてきた。時計を見るとそろそろ11時。
「昼めしどうする?」
「パパは自分のあるんでしょ?」
「あるにはあるけど」
「それともどっか行く?」
「近くがいいな」
 こんな会話が合図となり、それぞれがスマホ、PCで検索を始めた。すぐ引っかかった店が三鷹通り沿いと、極近所である。
「ここどうよ、彩香亭。三鷹通りだよ」
「なに屋?」
「中華っぽいかな」
「あの辺りに中華ってあったかな….」
 三鷹通りには飲食店がけっこう立ち並ぶ。ラーメンの一圓、AZDINING、ヒマラヤ、味噌一等々人気店が多い。向かってみると、Googleマップで確認したから問題なく見つかると思いきや、中華っぽい店が見当たらない。郵便局の手前まで来たところで、
「ないじゃない」
「おかしいな」
 女房はハナからこのあたりに中華店はないと確信している。目を皿にしながらもういちど来た道を引き返すと….
「あった、ほら」
「ほんとだ。なんで見過ごしたんだろ」


 彩香亭は居酒屋だったが、ランチもやっているという店なのだ。頭に中華店を思い描いていたので、目に入らなかったのかもしれない。
 入店すると、なるほどだ。左側がキッチンとカウンター、右側に小さなテーブルが並ぶウナギの寝床で、満席に近い活況はまさに居酒屋のそれ。しかも昨今では珍しいことに紫煙が漂っている。二人掛けのテーブル席が空いていたから座ったが、満席だったら即Uターンしたくなる雰囲気。ところがコルクボードに張り付けたランチメニューを見ると、あまりの安さにびっくり。ほとんどのメニューが税込みワンコインなのだ。
「じゃ、ピリ辛丼としょうが丼ください」
 夫婦二人で営んでいるようだ。ご主人がキッチンの中でせわしなく中華鍋を振り、奥さんと思しき女性が料理を運んだり会計をしたりと、見るからに忙しそう。十分待たずして運ばれてきた二つの丼、どこから見ても“まかない”である。案の定、食しても“まかない”だった。ただ、安い。なんてったってワンコインで腹いっぱいになるんだから。これに価値を見出す客にはウェルカム間違いなし。


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