歳のせいだろうか、ここ数年でずいぶんと涙もろくなってきた。
先日もJ:COMオンデマンドで鈴木恭平主演の『下剋上球児』を観ていたら、あまりに泣けるシーンが連発し、鼻はズルズル目は真っ赤、いやはや感動の嵐にもまれすぎて心底へとへとになった。動物もの、師弟愛、恋愛等々には特に弱く、共通する“一途”というキーワードは、思い描くだけでたちまち涙腺は不安定になる。
“歳のせいで…..”を調べてみると、<老化によって大脳の前頭葉に機能低下が起こったことで、感情抑制が十分にできなくなった>とする学説がある一方、<歳を重ね経験豊富になったことにより、相手への共感に基づいた涙もろさが起きやすくなっている>という見方もあるらしく、どちらも自分に当てはまるようでくすぐったい。
「たまにはお蕎麦食べに行かない」
「いいけど、どこ?」
「NTT通り」
「三丁目?」
「うん」
まっ、いいか。女房へついて行こう。
リビングは東向きなので、朝から冷え込みエアコンをフルに回していたが、表へ出るとけっこうな日差しがあり、三谷通りを越えるころから体がポカポカしてきた。
お目当ては【なかざき】を屋号とする手打ち蕎麦の店だった。
「いらっしゃいませ」
ずいぶんと歳の行ったおばさんが出てきた。
「あたし、トマト蕎麦。パパは?」
「じゃ、本日のおすすめ」
天丼ともり蕎麦のセットだ。それにしても女房のやつ、変わったものを注文する。
「お蕎麦は温かいのも出せますが、いかがします?」
「冷たいので」
「はいかしこまりました」
ちょうどお昼時で、店内はほぼ満席である。15分ほど待つと料理が運ばれてきた。
「トマト蕎麦、ちょっと味見してみる?」
トマト蕎麦はつけ麺で、出汁を口に含むとトマトベースのエスニック風味。蕎麦と一緒に食してみると、意外やイケる。一見すると普通の蕎麦屋だが、なかなか斬新なメニューを開発する。
そうこうしてると本日のおすすめが目の前に置かれた。まずはパーツで味見をしてみる。蕎麦つゆ ~ 深い味わい、文句なし。麺 ~ 蕎麦の風味満点。天丼 ~ 揚げ方最高の天ぷらと絶品の天つゆ。これだけ満足度の高い店が近所にあったとは……
まさに脚下照顧か。