本物は強い。そして生き残る。
数か月ぶりに、女房と武蔵境にある油そばの老舗【珍々亭】へ行ってきた。ここの味を知らずして、日本全国津々浦々に点在する油そば店のうんちくは語れない、と断言できる一品を味わいつくした。
それにしても、これほど人を惹きつけてやまない要素は、いったい何なのだろう。
まず、個人的好みはさておき、麺はピカイチだ。食感、のど越し、タレとの絡み等々、どれをとってもこれ以上は望めない。見た目のボリューム、そしてもちもちっとした食感から、一瞬ヘビーな印象をうけるが、咀嚼を始めると、タレと共に優しく喉を落ち、箸が進んでも、全く胃に負担がかからない不思議な感覚。
うま味たっぷりのタレは麺とよく絡み、醤油の香りが鼻を突き抜け、珍々亭の油そばを食べている実感に包まれる。お決まりの酢を垂らせば、甘みが広がり、二段目の味わいに笑みがこぼれる。
ただ一点。一枚だけ乗るチャーシューは、脂身が少なく、やや食感に優れない。これが改善されればパーフェクトなのだが…
開店する十一時にはすでに長蛇の列。これが定休日以外毎日起きるのだから凄い。これぞ“本物”の証拠である。
創業昭和三十二年。浮き沈みの多い食の世界にあって、名実ともに繁盛店であり続ける珍々亭に心からの拍手を送る。