はるかな下田 遠い空

 夏が来ぅ~れば思い出す はるかなシモォ~ダ(下田) 遠い空ぁ~~
 開国記念広場へ通ずる遊歩道から一望した下田の街である。ここからの景色はまとまりがあってとても好きだ。特に町を囲む山々の中にひとつ頭を出した下田富士がなんとも微笑ましく、アクセントにもなっている。そして稲生沢川に架かる橋と停泊している幾艘かの漁船とヨットは、下田という町のアウトラインと活気をイメージさせる。梅雨が終え、日本列島が高気圧に覆われる頃、毎年のように下田の街並みを懐かしむ。

 下田を初めて訪れたのは高校一年の夏。伊東温泉にある親父の務める会社の保養施設へ宿泊した時に、ちょっと遠いけど下田の先に弓ヶ浜というきれいな海水浴場があるから、どうせなら明日はそこへ行こうと、親父の強い要望に従うことになった。弓ヶ浜へは最寄りの伊東駅から伊豆急に乗って終点の下田駅まで行き、そこからバスに乗り換え、弓ヶ浜大橋まで行くというもの。トータル二時間弱と結構な長旅だ。ただ、親父の力説によれば、そこまでして行っても価値ある海岸らしい。

 伊豆急は快適だった。ほとんどが海岸沿いを走るので、車窓には何度となく大海原が広がる。水平線が湾曲して見えることを知ったのもこの時だ。
 下田に到着し、バスに乗り換えようと駅前に出たらびっくり。伊豆半島のほぼ最南端の町と聞いていたので、さぞかし田舎だろうと思っていたのに、右を見ても左を見ても観光客と思しき人、人、人で、新宿の歩行者天国と較べても勝るとも劣らない活況なのだ。しかも目の前の大通りは渋滞でびっしりと車が列をなし、駅前全体の喧騒は半端なレベルではない。そしてこの時の様子が下田の印象として強く記憶に残った。

 その後大学生になって愛車セリカ1600GTVを乗り回すようになり、当時の彼女を助手席に乗せて、やはり海水浴目的で下田の駅前を通過したことがあるが、その時も激しい渋滞に巻き込まれ、グロッキーした彼女を横目に、動かない車の中から駅前の様子をぼーっと眺めていたことを思い出す。
 近年になり、夏の下田の喧噪も昔ほどではなくなったが、それでも南国下田のイメージはいまだ健在。そんな下田が大好きだ。


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