2021年・年末撮影会

 今、二十九日の羽鳥慎一 モーニングショーを見ているが、午前八時時点で早くも渋滞を起こしている東名高速の下り方面が映し出されている。しかも撮影地点は横浜青葉だから、初っ端からノロノロが始まっているということだ。緊急事態宣言が解消され、新規感染者も少なくなり、心情的には帰省しやすくなったのが要因だろうか。都内の無料PCR検査場にも長蛇の列である。インタビューすると、帰省前の感染チェックで訪れた人がほとんどだ。羽田空港も昨年とは様相が違う。空港駐車場は既に満車状態で、周辺にある民間駐車場も年明け四~五日までは全く予約が取れないとのこと。世の中に動きと活況が戻ってきたのは嬉しいことだが、水面下では感染力の強いオミクロン株が広がりつつあり、年末年始の大移動が再拡大の引き金になるのではと不安が膨らむ。
 
 ウェザーニューズで調べてみたら、十二月三十日~三十一日の西伊豆は両日とも快晴ではあるが、風速11mの強風が吹き荒れるようだ。そしてこの予報は実によく当たる。
 Tくんのジムニーは初日から恐ろしいほどの潮風を浴びて、ウィンドウからボディー回り、全てがベトベト。ウォッシャー液が空になるのではと心配するほど使いまくった。冬の西伊豆はとかく風が出るものだが、それにしても毎度毎度当たり過ぎだ。先月の仁科一泊の時も、峠の見晴らし台で危うく飛ばされそうになった。
 磯での撮影は、ある程度の風はあった方が面白い画が撮れるものだが、三脚ごとカメラが吹き飛ばされるような強風下ではやれることが限られてくる。仕方がないので、海から遠ざかったところで、あんばいのいい撮影地はないかと頭をひねった。当初の予定では、雲見の烏帽子山に登り、広がる絶景を拝もうと期待していたが、海からせりあがる岸壁の先にある頂を考えたら、凄まじい風に煽られること必至。残念だが来年に回すことにしよう。

 大瀬崎入口を通過し、上りでアールのきついS字に入ると、左側斜面にある急階段が目に入った。
「止めてくれ」
「なんすか?」
 以前からここを通るとき、階段があることは気付いていた。恐らく上がったところに公園か何かがあるのだろう。路側帯の広いところを選んで駐車し、さっそくカメラを担いで階段へ向かう。急なだけに、二十段ほど上がると一気に高度が増し、視界が開けた。
「おおっ、すげっ!」
 Tくん、既にファインダーを覗いてシャッターを切り出した。富士山にちょっぴり雲がかかっているのが惜しいところだが、眼前には大瀬崎を手前に駿河湾がワイドに広がっている。胸のすくスケール感は圧倒的だ。新しい撮影ポイントが見つかれば、一カ所だけでも、季節、時刻、天候等々と、先々何度となく楽しめる。
 午後の斜光が眩しく感じられるころ、ジムニーは松崎の町に入った。伊那上神社のある交差点に牛原山町民の森の案内看板が目に入る。左折して細い道を進んで行くと、やがて急な上り坂になった。突き当りを右に折れるとワンボックスが一台停まっていたので、その脇にジムニーを停める。ここから未舗装になる道をしばらく歩いた。
「ここもいいじゃないですか」
 眼下には松崎の町、そしてその向こうには堂ヶ島の島々がくっきりと見渡せる。富士山は完全に雲に隠れてしまったが、眺めとしては素晴らしく、西伊豆の美しい海岸線が手に取るよう分かる。ここはアジサイ公園ともよばれている景勝地なので、梅雨の頃に西伊豆へ訪れることがあったら是非立ち寄ってみたい。牛原山は標高が236mあるが、車を利用できるので、誰でも楽しめるところがいい。

 今回の撮影行では一貫してD600+SIGMA24-105を使った。この組み合わせには裏切られることのない安定感がある。SIGMA24-105の切れのいい解像感はこれまで使ってきたいずれのズームレンズの中でも完全にトップクラスだし、その映像を受け入れるD600の性能はフルサイズならではの高い信頼感がある。ただ、入手時から気になっているSIGMAのオートフォーカスの引っ掛かりが、今回の撮影で頻発した。ズームリングをわずかに動かせば解消するが、特にテレ端時で起きやすく、その度にイラっとしてしまう。手間だが一度サービスセンターへ持ち込む必要がありそうだ。

 翌朝目覚めると、強風が全く収まっていないことにがっかり。この際、西伊豆はきっぱり諦めて、他の撮影地を探した方がいいのではと、起きてきたTくんと相談。
「三島でさ、街中スナップでもやらないか」
「それもいいかも」
 三島は湧水の町。市内には何本ものきれいな川が流れ、特に夏になれば子供たちの格好の遊び場になる。
 駅前のコインパーキングから白滝公園へ向かって坂を下っていくと、途中、飲み屋街を通る。昼間なので店は全て閉まっているが、その数の多さに驚く。しかも飲み屋街はここだけではなく、南へ向かう路地裏にも点々としているのだ。もちろん見るからに朽ち果てて廃業している店もあるが、いずれにしても地方都市としてのレベルを考えれば、少なくはない店の数だ。日が落ちるころに訪れたら、さぞかしネオンが賑やかだろう。

 実は今回。初日の朝一で、富士五湖・精進湖から富士山を狙った。天気がいいので何となく富士山を眺めてみたかったからだ。
 まだ暗いうちに北側の湖畔に到着すると、既に二十に届くほどの三脚が並んでいる。ここは逆さ富士が撮れることで写真愛好家にはポピュラーな場所なのだ。しかし、こんな早朝から寒さを絶え凌ぎ、ひたすら富士山の朝の変化を見つめるほど価値のある場所なのか。そのうち左側から朝日が射し始め、斜面がうっすらとオレンジ色に染まっていくのだが、雲が殆ど出ていないので、ダイナミックな朝焼けは望めない。ついには太陽が頭を出し、強烈な光を照射し始めると、富士山は逆光で再び闇に包まれた。すると、合わせたように湖畔に乱立していた三脚が閉じ始めた。
 富士山は誰もが愛する日本のシンボル。眺めるだけで、やっぱり富士山はいいよな~って素直に思う。ダイナミックで美しい姿は被写体としてもぴか一の人気を誇り、富士山だけを追うプロの写真家だって少なくない。確かに対象としては素晴らしい。しかしあくまでも工夫とSituationは必要だ。これに対して三島の街中の諸々が、富士山以上のときめきを感じさせてくれたのだから面白い。

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