節目を捉える

 あとふた月もすると、新しい年を迎える。若い頃は年末が近づくと、<来年こそチャレンジの年にしよう!>などと、やたらに鼻息が荒くなることもあったが、今では、<また年を食っちまう…>とか、<この一年、なんにもやらなかったなぁ…>等々、悲しいほどネガティブな男になり果てている。
どうしたものか……
先ずはここ一~二年、全く仕事に身が入らない。仕事内容や職場環境がどうこうではなく、“飽きた”と表現するのが一番近い。ただ、よくも続いたもので、モト・ギャルソンでの仕事は今年で三十四年目になる。感心すると同時に、常々潮時だろうとも感じていた。

 二年ほど前に会社を辞めたK君と吉祥寺で飲んだ。会うのは退社以来なので、募る話は山ほどあった。
メカニックだったK君は、整備士学校を卒業すると、間を入れずにモト・ギャルソンへ入社したので、社会人としての様々な経験は全てうちの会社で得たものだ。その彼が開口一番、「モト・ギャルソンって、ほんと、特殊な会社だったんだね」と放った。
運ばれてきた生ビールを一気に半分ほどやると、頬を緩めながら話が始まった。
「仕事の段取りは全部自分で組めたし、上や周りからとやかくいわれることもない。今からすれば自由奔放な職場だったよな」
「そうだね。一般的な会社の職場では考えられない環境だよ。俺だってデニーズ辞めてうちへきた時、驚いたもん」
「でしょう。だから今の会社の厳しさに慣れるまで、マジに二年かかりましたよ」
「だろうな」
「もうストレスたまりまくりで、涙だって出てきたから」
「でもさ、それが普通ってもんよ。昔、Mさんもいってた。<うちの会社って、辞める人少ないでしょ、なぜだかわかります>って。答えはね、<社長が全く怒らないからですよ>だってさ」
「それ、わかる」

 結局K君は転職して多くの壁にぶち当たることになったが、この決断は間違ってなかったと断言。彼は人生の節目を真剣に捉え、行動を起こし、そして自分なりの道を見つけたのだ。ただ、日常からの決別は簡単なものではなく、勇気なくして成しえるものではない。高校時代の同級生が六十三歳で早期退職し、完全リタイヤでゴルフ三昧しているという話を聞いたときも、妙に心が揺れた。これも節目を捉えてより満足できる人生を掴もうとした勇気ある事例だと。


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