若い頃・デニーズ時代 57

田無店の上西UMを思い出す。
自分にはとても親切にしてくれ、色々とお世話になったが、店を平気で私物化するところや、とてもUMとは思えない言動の数々、傍から見ればハラハラドキドキであった。
そしてその上西UMを彷彿、いやそれをはるかに上回るのが海田DMである。初めて全店店長会議へ参加した時は度肝を抜かれた。
イトーヨーカ堂の伊藤社長以下、デニーズのお偉方にDM陣、そして全国から集まった大勢のUM、彼らは例外なくダークスーツと白のワイシャツを身にまとい、まっとうな会社人をアピールする身なりだが、ただ一人、場違いな光を放つ男がいた。
こげ茶のブレザーに濃紺のワイシャツ、これに合わせるのがベージュのタイに同色のスラックス。これでは誰が見てもチンピラかやくざで、場違いも甚だしく、もはや常識を疑うレベル。更にはガムを噛みながら大声で喋り、絶えずニヤついた笑顔は、まんま“ニヤケタひょっとこ”。
あの時、まさか彼がDMだとは夢にも思わなかった。

「なにがあったか知らねえが、南の売り上げ落としたら承知しねーぞ」

据わった眼で下からギロリ。全く呆れる。
これではチンピラの恫喝と何ら変わらない。情けなさを通り越して溜息が出る。

「まっ、かたいことはおいといて、木代、おまえ麻雀出来るか?!」

顔つきが一瞬のうちに180度変わった。うぉ!キモイ! まじめに鳥肌が立ってしまう。
今気がついたが、海田DMって、昔はボクサーだったのでは?!
鼻の潰れ方がタイトルマッチに出てくる歴戦のボクサー達のそれと全く同じなのだ。

「いちおうできますが、、、」
「よし決まった。行くぞ」
「えっ?!今から、ですか」
「行くって言ったら行くんだよ。おい長岡、よろしくな」
「ま、ました」

麻雀てのは、やり出したら1~2時間では終わらない。いくらDMの命令だとしても、就業時間中に麻雀はまずい。これから強力なタッグを組まなければならないAM長岡の手前、ばつが悪すぎる。
しかしせかすDMにしょうがなく車を出し、渋々後を追ったのだ。連れて行かれたのは調布店からすぐ近くの雀荘。既に調布店UMの中田と北村が雀卓でお待ちかねだ。
店内は薄暗く、学生時代に良く通った習志野の雀荘に良く似た雰囲気である。
それにしても北村の奴、戦場と化している千歳船橋から良く抜け出してきたもんだ。あ~辛!
結局20時過ぎまで激闘は続き、海田さんの一人勝ちで幕が下りた。

「いやいやいやいや、皆さんしけたツラだね~~」

有頂天の海田DMとは正反対の3人。しかし、うんざり感を全く隠さないところが、なんだか可笑しい。

「それじゃ私、とりあえず店に寄ってから帰ります」

北村はさっさと帰り支度である。私もこれに便乗して退散だ。

「私も店に向かいます」

それにしても野放し状態であるDMを管理するシステムはないものだろうか。
ずばり言って海田さんや土田さんは給料泥棒だ。部下を仕事中に遊びに連れ出したり、“売上を落としたら承知しねーぞ”なんて恫喝まがいな発言をしたり、はたまた相談事をしようとしても、“聞かなかったことにしてくれ”とか、一体どうなっているのか。益になることは一つもしないくせに、給料はUMをはるかに上回るのだから、どう考えても納得できない。RMに進言したって、彼らも同じ穴の狢だから、下手すりゃ報復される可能性の方が大きい。ほんと、弱ったものだ。

「お疲れさんでした。大変でしたね。戦果はどうでしたか?」
「山田さんの一人勝ち」
「そうですか、強いっすよね~あの人、北村さんもやられてましたよ」

引きが強いというか、強引に通すというか、確かに上昇気流を掴む術には長けていると思う。いずれにせよお手柔らかに願いたいものだ。

「それはさておき、キャンペーンのキウイ、どのくらい発注した?」
「とりあえず1ケースにしときました」
「大丈夫かな」
「イチゴの時と較べてやや食材が特殊かなと思って、、、」
「なるほど」

デニーズでは季節のフルーツを使って、期間限定のスペシャルメニューキャンペーンを行っている。先回のイチゴキャンペーンは好評を博し、最も個数を使うイチゴパフェへ予想を上回るオーダーが入り、慌てて小金井北店まで借りに飛びてんやわんやだった。
とにかくレストランにとって品切れはご法度であり、せっかく来店下さったお客さんの要望に叶えられないことは大きなペナルティーだ。それにデニーズ全体の評価にも影響してくる。
但し、品切れを恐れて過剰に発注すれば、当然ロスが出ることになり、フードコストは上がり収益はダウンする。
定番商品は個別の生産性から、かなり正確な発注量を算出できるが、キャンペーン商品で且つ生ものは難しい。
反対に余り気味になってきたら、フロント全員でおすすめ作戦を展開するのだ。

キウイキャンペーンが始まった最初の週末、天候も良く朝から客足は順調だった。小金井南店は小金井北店と同様に106型で南向きなので、店内は非常に明るく、清潔感と活気がほとばしる。鬱蒼とした木々に囲まれ、西向きに建つ東久留米店とは、同じ106型でも入店時の印象は大分違う。
おまけに店前を走る東八道路は新道であり、片側2車線と広く、これも店内の明るさに大分影響していると思う。
今日はベテランランチスタッフのMD大川がDLをやってくれているので、既にウェイティングが数組にも膨らんでいるのに、レジ周りは至ってスムーズ。

「25番OKです」
「ありがとう。それではご案内いたします!」

相変わらずBHの猪野は動きがいい。バスタブを下げる際にも絶えずフロントの状況を気にしているから、お帰りのお客さんを目ざとく見つけ即バッシングに掛る。彼のようなBHがいるとピーク時の回転は格段に良くなる。
それにしても客席を見渡すとキウイメニューがよく出ている。やや不安が走った。
レジのすぐ後ろにあるファウンテンエリアに目をやれば、新人MDの中森がぎこちない手つきでキウイシェークを作っている。

「中森さん、キウイあといくつ残ってる?」
「え~と、あと5~6個です」

朝一でリーチインの在庫を確認した時は残り1トレイだったから、もっても明日のランチまでだ。

「長岡、やっぱりキウイがアウトになりそうだ」
「すみません、予想外に好調ですね」

すぐに近隣店に在庫の照会を掛けたが、やはりどこも好調なようで余剰はないとのこと。

「そうだマネージャー」

突如何かを思い出した長岡に笑顔が出た。

「どうした」
「確か隣のガソリンスタンドでキウイ売ってましたよ」

あそこは良く利用するが、キウイなんて置いてあったかな、、、
でもスタンドの裏手には農園らしき土地が広がっていたような気がする。
いずれにせよ指定業者以外からの仕入れは禁じられているが、本当に置いてあるならここはUM判断で手に入れてしまおう。

「わかった。それじゃ長岡、10個ほどでいいから買ってきてくれ」
「ました、行ってきます!」

キウイの一件にはオチがあった。
ガソリンスタンドで手に入れたキウイは、指定業者から納入する品物より安くて味も格段に良かったのだ。これを使ったキウイパフェを召し上がったお客さんが、リピーターとなって再度注文したとき、どの様な反応が現れるのか、ちょっと怖い、、、


「若い頃・デニーズ時代 57」への2件のフィードバック

  1. 久々の更新ありがとうございます。
    お忙しいでしょうが更新のペースを上げてくださると非常に嬉しいです。
    毎回楽しみにしております。

    デニーズ現役店長

    1. いつもお読みいただきありがとうございます。
      ご希望に添えるよう頑張って書いていきますので、よろしくお願いいたします。

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