精神の浄化

6月22日(木)。久々の山歩きを楽しんだ。最後に行ったのが去年11月の“八丁池”だから、既に8カ月が経過している。
山から遠のいた理由は様々あるが、やはりマンネリ化してきてきたことが一番だと思う。その他にもD600での試し撮りスナップが面白くなったり、はたまたリチャードとの公園巡りが楽しかったりで、以前より目が向かなくなったのが正直なところだろう。
<それじゃあ、なんで?!>
梅雨入りで毎日が不安定な空模様の中、貴重な晴れ予報が出ていたこと、そしていつまで経っても良くならない腰痛に、<逆療法でもくれてやれ!>と、少々やけっぱちな心情が働き、今回の山歩きとなったのだ。
そんなことで、ルートは足慣らしによく選ぶ“御岳山~日の出山”に決定。当日はゆっくりと7時に自宅出発した。

それにしても腰痛の治りが悪い。一カ月以上経ってもほとんど症状に変化がなく、不安ばかりが膨らんでいく。痺れは一切感じないので椎間板ヘルニアではないと思うが、清水さんのお父さんが手術すれすれまで悪化させ、一カ月近く仕事にならなかったと聞いて、今までは放っておけばそのうち治ると強気でいたが、そろそろ病院へ行かねばと考えている。

8時半前に二俣尾のセブンへ到着。道の流れは頗る良い。
さっそく車から降りようとすると、

「うっ!」

重い痛みが邪魔をして、シートから腰を浮かせることができない。座った状態が長く続くと必ず痛みが起きるが、それにしても強烈だ。座面に手をつき、体を支えるようにして何とか立ち上がったものの、これで山を歩けるのかと心配になってきた。
鳩ノ巣の無料駐車場へと車を移し、着替えなどの出発準備を整えた後は、入念なストレッチングで腰の緊張を解した。うっすらと汗をかくまで繰り返すと硬さが取れ、幾分軽い感じになってきたので、予定通りに出発。R411を横断して多摩川に架かる雲仙橋を渡る頃には、何とか痛みも落ち着いてきて、久々の山歩きを楽しもうという前向きな気分になってきた。
幾分水量を増した眼下の多摩川は、いつもながら美しい渓谷美を放っている。
この先の集落を通過すれば、山道の入り口だ。

前日の雨でそうとうにぬかるんでいると覚悟を決めていたが、こちらはそれほど降らなかったようで、山道のコンディションも上々だし、空気感にじっとりさはない。むしろ木々の間を爽やかな風が駆け抜け、その気持ちよさに鼻歌までが飛び出した。
但、山中は新緑を通り越し、猛然な勢いで草木が成長しているので、いたるところで枝葉をかき分け進むことになった。
大楢峠で短い休憩の後は、いつものように御岳山へと向かった。
前回はこの先で巨大な角を持つ牡鹿と遭遇し、腰を抜かした。熊じゃなくて助かったが、鹿でもあれだけでかい奴だと、その存在は恐怖そのもの。
小さな沢と、ちょっとした岩場を超えると、御岳山の集落はもうすぐだ。

「おっ?解体か」

このルートで集落入りすると、最初に出迎えてくれるのが藁葺屋根の古い民家である。ところがその古民家がついに解体の運命らしい。見れば一部の柱と梁を残して殆ど骨組み状態になっている。完全な解体ではなく恐らく修復だと思われるが、親しんだオリジナルが消えてしまうことは寂しいことだ。
それはさておき、ここから始まる石垣はいつも目を楽しませてくれる。なぜなら、この石垣には季節ごとに何らかの可憐な花がいつも開花しているからだ。先回訪れたときには、なんとカタクリを見つけることができた。カタクリと言えば御前山の群落が見事だが、ほかの花にまじってきっちりと咲いている様は、中々の妙を感じる。
ここまでは腰痛の影響もほとんど出ていなかったので、いつも利用する紅葉屋へは寄らずに、このまま日の出山へと歩を進めた。
それにしても、この人影まばらはどうしたことだろう。いつもそこそこの活況を見せている御岳山集落なのに、、、

集落から日の出山までは、尾根道を行くことになり快適だ。
ケーブルカーで上がってきた大勢のハイカーも流れてくる人気のルートでもある。

「こんにちは!」

おそろいの“岳”Tシャツを着こんだ若い人5人組が軽快な速度ですれ違う。
紅潮した頬からは若者ならではのパワー感が漲り、歩き去った後姿を眺めれば、無意識のうちに羨ましさがこみ上げた。悲しいかな、これも歳を取ったせいか、、、

13時過ぎに日の出山山頂へ到着。ややガスっていたが眺望は十分。お気に入りの場所だけに、昼食タイムを兼ねてゆっくりと時間を楽しむことにした。
ここは東から南にかけての眺めが良く、空気が澄んでいる時などは西武ドームがくっきっりと確認できる。大岳山方面も広々としていて、山の連なりが登山心を掻き立てる。
ぐるり見渡すと、東屋に2名の年配男性。手すり側のベンチに年配女性の2人組。西側には年配男性が出発準備の真っ最中。そして向かいのベンチにはやや小太りの30代と思しき女性がガイドブックに見入っている。誰と会話をするわけでもないが、狭い山頂に集っているだけで、なんとなく近しく思えてくるのだから不思議だ。
おにぎり2個とクロワッサン1袋を平らげた後は、入念にストレッチングを行った。
腰に問題はなかったが、いつもの左膝に違和感を覚えはじめたからだ。
多少のアップダウンはあるものの、ここから愛宕神社までは下りとなるので、この兆候は不安材料になる。違和感の本元である腸脛靭帯炎は、下り時にのみ起こる痛みなのだから。

結局、愛宕尾根の下りは涙・涙・涙であった。
山を歩き回るための筋力は殆ど振り出しに戻っている筈なので、これは致し方のないことだが、送電線塔から先の急坂の連続では、ウッと声が出るほどの痛みも走り、情けない気分を通り越して苛立ちを覚えてしまう。特に愛宕神社の長い石段を下る際は、手すりに思いっきり体重を乗せて、一歩一歩だった。
しかし、そんな痛みを差し引いても、山歩きは楽しいものだ。
鳩ノ巣~古里~川井~御嶽~沢井~軍畑~二俣尾と、青梅線の駅で6駅分、路線距離にして10Km以上に登り下りの負荷を加えた山中の道を、自分の足と感覚だけを頼りに歩き切る達成感は、何度味わっても気分がいい。
そして7時間半もの長い間、自然の中に身を置くことは、精神の浄化に大きく寄与すると私は信じている。


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