江の島

1月22日(金)。ローパスの清掃を済ませたD2Hを抱え、春の陽気に包まれた江の島を歩いてきた。
この頃の寒さを考えれば、海の近くで風でもあればさぞかし辛いのではと、ワークシャツ、フリース、ダウンベスト、綿コートと完全装備を用意したのだが、なんと道中の車内から暖房いらずのの暖かさ。嬉しい誤算に写欲は否応なしに膨らんでいった。

海が見たいと思った時、いつも頭に浮かんでくるのは、沼津、城ヶ島、そして江の島。
最初は沼津の静浦あたりでじっくりやろうと考えたが、昨年末の撮影会でも立ち寄っていたので、ならば一年少々ご無沙汰している江の島へ行ってみようと急遽作戦を練り直した。
車なら東名高速~厚木IC~R134というルートが一般的だろうが、別に急ぐこともないので、それなら下道だけでのんびり行くのも妙味と即決定。
前日に一通りのルートをは確認したが、大凡Gマップのナビに任せれば、細かいところは補正してくれる筈。しかも2~3日前にGマップのアップデートは済ませてあるから万全だ。
9時過ぎに自宅を出発すると、鶴川街道からよみうりランドを抜け、快適なドライブがスタートした。

年末年始は多いに苦労した腰痛も、ようやく回復傾向が見えてきて、普段生活に支障をきたすことはほぼ無くなった。江の島までの片道2時間半強のドライブでも痛みは出ず、ほっとするやら嬉しいやら。
11時半をちょっと回った頃、湘南海岸が目の前に現れた。いつ眺めても海は広々として気持ちが安らぐ。
もし日本に富士山がなかったら?!
そして、もし湘南に江の島がなかったら?!
これは大変なことである。もう、クリープのないコーヒーどころではない。
湘南の景観にとって江の島は重要なアクセントになっており、ビーチエリアに咲く大輪の花、いやいや、紛れもないシンボルなのだ。
江の島大橋を渡り、一番奥にある“湘南港臨港道路付属駐車場”へ車を停めた。

時間が時間なので先ずは腹ごしらえである。江の島スナップは結構なアップダウンを伴う歩行になるので、事前のエネルギー補給は肝心だ。
駐車場から出ると、聖天島公園の隣にある【文佐食堂】というレトロな店へ入ってみた。著名な“とびっちょ”等々は無視。江の島名物生シラスは一度食すれば充分である。
因みに私の主観になるが、生シラスだったら沼津で食する駿河湾ものの方が美味しい。

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「カレー下さい」

テーブル席は全て埋まっていたが、見たところ観光客は私だけのようだ。殆どの客は港湾設備の建設作業員らしく、食している品も、カツ丼、カツカレー、ラーメン等々で、メニューにはあるが、サザエ丼とか刺身定食など、“江の島定番”はどこのテーブルにも見られない。
出てきたカレーは小麦粉たっぷりの馴染みある味。ガッツリ食べて力も出てきた!

参道の入口まで来ると、観光客が溢れかえりとても平日とは思えない。老若男女から外国人と、一級観光地にありがちな光景が広がり、江の島の人気度が窺えるところだ。特に丸焼きたこせんべいの店頭には若い人達が群がり行列もできている。先回訪れたとき、買って帰ろうかなと一時思ったが、同様な状況だったので次へ回したのだ。
混み合う参道を後に頂上へと歩を進める。
今回は島の西側にある磯と洞窟へ立ち寄るのが目的のひとつ。東の磯から回り込めなかった先回のリベンジでありとても楽しみである。

コッキング苑入口を右に見ながら急な石段を下っていく。それぞれに個性を出したみやげ物屋や食堂が軒を並べ目を楽しませてくれる。ヨットハーバーや公園がある広々とした東側とは趣が異なり、磯を始めとする自然の造形が美しく、どちらかと言えば私好みのエリアだ。こうなると面白い被写体と出会える予感がしてきて、怪しいほどに辺りをキョロ見した。
間もなくすると左側が大きく開け、切り立った断崖と共に豪快な磯の景色が見えてきた。

「やっぱり気持ちいいよな~、磯は」

ここの磯は“稚児ヶ淵”と称し、富士山の向こう側に沈む夕日の美しさから【神奈川の景勝50選】にも選ばれている。一方、十数人を越える釣り人達が竿を振る傍ら、デジカメやスマホで記念撮影に精を出す大勢の観光客のコントラストが何ともちぐはぐで愉快になる。
ざっと見回すとデジイチを構えているのは私を含めて4人ほどいたが、嬉しいことにその中の3名が黄色いストラップ、つまりNikonの愛用者だ。
黒縁めがねの30歳代と思しき男性は、誇らしげにD750で小田原方面の海岸線を狙い、その近くで若い男性が彼女をモデルに満面の笑みでシャッターを切っている。そしてもう一人、中国人グループの若い女性は果敢に青空を舞う鳥達を追っていた。
そう、江の島はよく訪れる城ヶ島とくらべてトビの数が多く感じられる。人のすぐ近くまで滑空する様は迫力があってしかも美しい。若い女性の三人組が全員スマホでトビを撮ろうとしているが、これはちょっと難しいだろう。

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磯から戻り、“岩屋”と称する海食洞窟へ入ってみる。大昔ここは僧侶の修行の場だったところで、薄暗い中洞窟の中には多くの石仏を見ることができる。
途中スタッフの詰め所のようなところがあり、通過しようとすると若い男性が出てきて手燭を渡された。粋なサービスだとは思うが、片手が塞がり不便でしょうがない。しかもこれ、見物者が多くなったら結構危険ではなかろうか。
通路内の比較的明かりの多い場所で撮影の準備に取り掛かる。
先ずはD2HのISO感度を1600まで上げて絞りは全開にした。洞窟の壁面にある説明版を照らす僅かな光りにレンズを向けると、これでシャッター速度は1/15秒となり、VRの力を借りれば何とか手持ち撮影が可能になった。
但、この洞窟内は意外と蒸し暑く、お世辞にも快適とは言えない為、早々に引き上げることにした。

磯での撮影を終え、下ってきた階段を再びコッキング苑入口まで戻るのだが、この急坂はそれまであちこち歩き回った足腰にはちょっぴり堪えた。しかし先回の江の島では見られなかった新たな部分を堪能できた充実感で気分だけは軽やかになっていた。

これまでまだ見ぬ被写体を求めて彼方此方と出掛けてきたが、海に囲まれた江の島のようなところへ訪れると、写真撮影は漫遊の上に成り立つものだとつくづく感じてしまう。
先ずは見聞を広げる為に出掛けることがポイントであり、そこから得られる経験によって感性と撮影技術が磨かれていくと思う。
イルキャンティ・カフェ脇の展望台から見渡す海は、早くも夕暮れの様相を迎えつつあり、さっきまであれほど暖かく感じた空気が急に冷え冷えとしたものに変わり始めた。
5時間弱はあっと言う間に過ぎ去り、一年ぶりに持ち出したD2Hがズッシリと肩に食い込んでいた。


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