2015年・年末撮影会

浄蓮の滝

一昨年末の話になるが、
二日間の撮影会が無事終了して、帰路につく車内では

「来年こそは伊豆じゃないところへ行こうよ」
「ですね。色々考えましょう」

と、盛り上がっていた。
ところが今回も宿泊先には伊豆を選んだ。
もちろん宿を決めるには、色々と考えもした。何といっても東京から近いし気候も温暖、それに私もTくんも海の幸が大好物、更には殆どの地区で温泉にありつけるという好条件を敢えて変更することもないし、違う場所へは年末撮影会ではなく、新たなイベントを作って行けばいいとの結論に達したのだ。
よって今後も迷わず年末は伊豆になる。

待ちに待った決行日。しかし三日前に突然起きた腰痛で、コンディションは今までになく低調。膝を上げようとすると左臀部に強い痛みが走り、靴下を履くこともままならない。車に乗る際も、お尻をシートの奥深くまで密着させ、背筋をぴんとしていなければ座っているだけでずきずきする。
幸い歩くことにそれほどの苦痛はなく、年を締めくくる恒例の撮影会とあって、ここは気合いを入れて決行としたのだ。

「去年は俺の足、今年は木代さんの腰ですか」
「まったく困ったもんだね」

快適に流れる東名高速。約1年前に十数万km乗ったノアからジムニーに代替えしたTくん。二人分の撮影機材と荷物を載せると後部スペースは満杯になる。しかしこのジムニー、その軽敏な機動力で撮影会を大いにフォローしてくれたのだ。

裾野ICで降りて三島市街まで進むと、ファミリーレストランのデニーズで朝食をとった。
Tくん和定食、私はフレンチトースト。朝に甘いものを摂らないと体が目覚めないのだ。アメリカンコーヒー3杯と共に腑に落とせば、ぽかぽかと芯から温まってきて頭もすっきりとしてくる。
腰痛のせいと言う訳ではないが、今回は重量級のD2Hを家に残し、普段撮りに重宝しているV2と18-200mmを装着したD100をチョイス。V2のスナップ力がいつもの撮影会に変化をもたらすのではと、期待が高まった。
この後、下田街道へ入っても車の流れが良かったので、トイレ休憩も兼ねて、手始めに“天城・浄蓮の滝”で初っ端の撮影を行うことにした。
早朝にもかかわらず駐車場は八分ほどが埋まっていて、準備をしている間にも観光バスが到着、団体客が降りだしてきた。
入口からは長い石段を下りていく。滝壺周辺には記念撮影を行おうと人集りができている。下流へ目をやると鱒釣りに興じている人も数名ほどいた。
係の人が生簀から鱒をタモですくってはバケツへ移し、これを川まで降りて放流している。これなら楽勝で釣れるだろう。
ここを初めて訪れたのは、確か学生の頃にセリカGTVを手に入れた頃だったから、浄蓮の滝は既に40年もの長い間、伊豆の観光メッカとして親しまれていることになる。
名瀑は永遠だ。

「ああーしんど!」
「息が上がるぜ、この石段」

下田の町

この後、我々は一気に下田を目指した。
腰の鈍い痛みは相変わらずだったが、滝壺までの往復を歩いても何ら問題は起きなかったので、気分はずいぶんと楽になった。これで躊躇なく動き回れる!

「ラッキー!」
「しかし、こんなとこに来るのは俺たちだけじゃないんだね~」

下田公園の狭い駐車場に空きは一台のみだった。
我々はすぐにカメラを持ち出し、なだらかな坂を上がっていった。
進むほどに港の全景が露わになっていく。
遊歩道から見下ろす下田の町は、こぢんまりとしたローカルさがとてもPhotogenicで、できれば一度ここから夜景を狙ってみたいと思う。

「あれ? シャッターが降りない。Err表示が出てうんともすんとも言わないよ」
「やばいじゃないですか!」

D100を購入以来初めてのトラブルである。
冷静になって観察するとピントマークが出ていない。Sモードではピントが合わないとシャッターが降りないようになっているので、すぐにCモードに切り替えて再度押し込むと何もなかったようにきれいに降りた。
次に再度Sモードへ戻してみたが、問題なくピントマークも出てシャッターも降りる。
18-200mmとの相性?、ファームウェア?!、バッテリー?!、接点不良?!
色々頭を巡らせたが、ちょっと嫌な感じが残ってしまった。
一時間少々の撮影を終えると、町中に場所を移して食堂を探した。時刻はちょうど12時を回った頃だし、歩き回っているから余計に腹が減るのだろう。

「石廊崎に着くまでの間に浜がいくつかあるんで、下見兼ねて寄っていこう」
「いいっすね!」

下田から先は海が全く見えないエリアとなる。山間部に入ったような感覚に陥るが、実は左方数百メートルには海があるのだ。そのせいか大昔は知る人ぞ知る穴場的ビーチが点在し、旧盆中の海水浴でもビーチにはずいぶんなゆとりがあったのを覚えている。

「多々戸浜の看板だ。そこ左だよ」
「了解」

細くなった道を進むとすぐにビーチへと出た。

「サーファーだよ」
「ほんとだ」

凪ってはいたが、見れば十数人のサーファーが波待ちをしている。駐車場には四駆を中心とした車がたくさん並んでおり、ここがサーファーズパラダイスであることが容易に分かった。テントも数張り、そしてキャンピングカーもいるところから、年末年始をサーフィン三昧で過ごす人達も少なくないのだろう。
私はサーフィンはやらないが、この明るいビーチを見渡していると、なんだかとても楽しそうに思えてくる。
この後、二つの浜へ寄って下見を敢行。それぞれの良さや趣を確認した後、今宵の宿『忠屋』を目指した。

サーファービーチ

「道、めっちゃ狭いですね」
「浜辺の町の特徴だ」

国道から逸れて弓ヶ浜の住宅街へ入ると道はたちまち狭くなり、まるで迷路に入ったような感じになった。
しかしここでもジムニーはスイスイ。これがノアだったらけっこう気を遣いそうなレベルなのだ。

「あそこだ、その左の」
「ちょうど駐車場だね、了解!」

この車庫入れも普通の車ならちょっと慎重になるが、ジムニーはいとも簡単に入っていく。

「こんにちは、予約している木代です」
「はーい、どうもいらしゃい!」

50歳手前ほどであろうか、笑顔の優しい女将さんが何やら桶を抱えて現れた。

「これ、夕飯に出しますよ」

徐に桶の中身を引っ張り出した。

「うわっ、タカアシガニだよ」
「すっげー!」

昨年の撮影会で宇久須漁港へ寄った時に水揚げされていた、深海性のどでかいカニである。

「よかったら持ってみてください。なかなかチャンスはありませんよ」

お言葉に甘えて甲羅を掴んで持ち上げると、案の定ずっしりとくる。

「一杯全部お出しします」
「こりゃ酒が進みそうだ」
「楽しみー♪」

チェックインの後、荷物を整理しながら早速ワンカップを開けて乾杯だ。
いつもながら旅での酒は染み入るうまさを感じてしまう。

「これ飲んだら浜へ行こう」
「ですね、もう夕陽が出そうですよ」

カメラバッグから余り考えずにD100を取りだし電源スイッチをオンにすると、

「まいった、またErrがでた」

ところが何気にシャッターボタンを押してみたら、鈍いレリーズ音の後にErrが消えたのだ。

「こりゃ使わない方がいいかも。諦めてV2に替えよう」
「撮影はできるけど、実は俺のD2X、CFのアクセスランプが消えないんですよ」
「機械は自然治癒しないから、修理に出すしかないな」
「お互い、うんと修理代が掛かるようなら、考えものですね」

忠屋

12年間使ってきたD100。壊れても不思議ではない耐用年数だが、今までひとつのトラブルもなかっただけに信頼感の低下は否めない。これを機に新たなメイン機種選びも本腰が入りそうだが、FXはたまたDX、悩みの種が再燃しそうだ。

浜に出るとちょうど薄い赤みが帯びだした頃だった。ベストタイミングとはこれのこと。D100が使えないので望遠は諦めるしかないが、その分高感度に強いV2で景色を切り取ってやろうと今一度ISO設定を確認する。
そうこうしているうちに赤みはその照度と彩度を上げていき、浜辺ならではの鮮やかな赤があたりを覆いだした。いつものことだが、この光景を目の当たりにすると沼津の千本浜を思い出す。
少年だった頃、青年だった頃、そして今でも変わることのない閃きだ。

宿へ戻ると何はともあれ温泉へ、

「温まるぅ~~~」
「このお湯ちょっとしょっぱいよ」
「ほんとだ、塩分が入ってるんだ」

きれいな浴室で湯量も豊富。腰の痛みが少しでも楽になればと、ゆっくり時間を掛けて湯船に浸かった。
そしてお待ちかねの夕食。
予想を上回る立派な品々に思わず笑みがでてしまう。
タカアシガニ一杯、3種の刺身、穴子の煮付け、土瓶蒸し、天麩羅3種、サザエの壺焼き、なます、イカ塩から、漬け物、炊き込み御飯等々、盛り付けも鮮やかで、とても民宿の料理とは思えない。

「うまっ!いけます穴子!」
「刺身もぷりぷりだよ」

徐にタカアシガニを掴むと、足をボキッ!
太い身が出てきたら、それにカニミソをたっぷりとつけて口へと運ぶ。

「くぅ~、、たまらん」

ガンガン酒が進む。

「もしかして、いままでで一番ゴージャスじゃないかな」
「かもね」

座敷座りは腰にきつかったが、料理の美味さに一時忘れたほど。
こうして今宵は盛り上がっていった。

二日目は朝からどんよりとした雲に覆われ、今にも雨が落ちてきそうな空模様。
但、女将さんがついこの間、浜で靄を見たと言っていたので、駄目元でいってみることにした。
頭の隅に若干のアルコールが残っていたが、飲んだ量にしては体調が良い。
表へ出ると路地裏はきりりとした空気に包まれ、身も心もしゃっきとしてきた。

「出てますよ靄が!女将さんが言ってたやつだ!」

量は多くないが、海水の温度が高い為か、海面遠くまで靄が立ちこめている。
その光景は幻想的であり写真好きには堪らないところだが、周囲の風景がややベタであり、それだけではもうひとつ物足りない感じがした。
それにしてもこの景色、望遠側不足は致命的である。
Tくんに目をやれば、沖に向かって一心不乱にシャッターを切っているではないか。タムロン16-300mmの威力発揮だ。
弓ヶ浜は自分にとって思い出多きところでもある。
中学生の頃、家族4人で海水浴へ来たのを皮切りに、大学生になると、付き合っていた彼女とロングドライブで訪れたし、バイクツーリングでも何度となく寄ってはこの大海原を眺めてきた。
一番好きな海岸は沼津の千本浜。そして2番目はこの弓ヶ浜になる。

アロエの花

二日目は西海岸の下見が主になった。
面白い町風景はないかと、それまで深く見て回らなかった港町を南から順にチェックしていったのだ。
先ずは青野川を渡って石廊崎漁港へ。
自然の入り江を利用した漁港には、他では見られない独特の景観がある。また石廊崎クルーズ船の発着港でもあるので、観光客の姿もけっこう目に付いた。

「上がってみる?」
「取りあえず行ってみましょうか」

ここには石廊崎灯台へ至る遊歩道がある。過去に何度か石廊崎を訪れたことはあるが、出発点はここではなく、港の西の山側にある駐車場から逆に下っていくルートを使ってきた。
ゴールは同じでも歩く道が違うので何かしらの発見があるかと、期待しつつ歩き始めたが、めぼしいものは見つからず、気が付けば灯台が目と鼻の先であった。

「朽ち果ててるな」

80年代始め頃までは人気観光地であった石廊崎。その昔は石廊崎ジャングルパークと称するテーマパークまであり、調べれば年間70万人を越える観光客で賑わっていたようだ。それが今では完全閉鎖により無人と化し、周囲に点在した土産物屋や飲食店の朽ち果てた姿が侘びしさを誘っている。
それでも岬の神社まで足を運ぶと、そこそこの観光客を目にすることができ、だったらこの様な廃墟は一日でも早く取り壊した方が石廊崎の好印象保持の為にも必要ではないかと思ってしまう。

入間、妻良、子浦と立ち寄り、その後は仁科の馴染みの定食屋『パピヨン』で昼食を取った。

「二日間って早いっすね~」
「楽しいことはあっと言う間さ」

戸田港では駿河湾越しの富士山を狙い、ラストは沼津の千本浜で本年最後の夕陽をじっくりと味わいつつ切り取った。
大勢の人達が真っ赤な夕陽を浴びながら、ここで行く年来る年の感慨を味わうこの一体感は、なんとも心安らぐ一時であり、それは第二の故郷・沼津へ対する郷愁が大きく関与していることは間違いない。

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